なぜ旅行保険詐欺はなくならないのか?
難易度で比較するのは適切ではないが、保険金詐欺のなかで最も易しい部類に入るのが、海外旅行保険の携行品損害。加入するのに面倒な手続き、審査は一切なく、保険料も安い。またその手口も、旅行中に盗難にあったと現地の警察に虚偽の申告→保険会社にポリスリポート(盗難届)を送るといった簡単なもの。その具体的な手法はピカレスク小説、漫画等で紹介されているので、悪事に手を染めた感が薄いということもあるかもしれない。海外旅行保険詐欺の常習犯であるN村さんは、薄ら笑いを浮かべながら語り始める。
「自分で請求したのは2回。請求の履歴は信販会社の記録に5年残るから、そんなに頻繁にはできないしね。あとは斡旋してバックマージンもらったのが10回くらい。斡旋つってもそんなおおげさな話じゃないよ。俺、ブランドのバッグとかよく買うから、保証書とギャランティを購入の証明用に渡すってだけで。斡旋するときには一番高いやつに入らせるから、1年以内に買った30万円のバッグなら、30万円そのまま支払われる。俺はそのうちの3割くらいをもらうってわけ」
損保、信販会社によって審査の厳しさは違うというが、基本的にポリスリポートと、購入を証明するものさえあれば、何を言われることもなく、保険金がおりるという。
「ぶっちゃけ、ポリスレポートなんかなくてもいいんだよ。『出発間際に盗られて、警察に届ける時間がありません』って現地から保険会社に電話すればOK。用意周到にお膳立てするより、そっちのほうが切羽詰まった感が出てて、信憑性もあるよ(笑)」
これほどこの手口がポピュラーになった今でも、書類の提出と電話だけで済むとは、ほとんど審査なんてしてないようにも思えるが……。大手損保の審査部門に所属するM口さんに話を聞いてみた。
「細かい審査基準については明かせませんが、携行品損害の請求に対して、詐欺未遂で告訴する頻度は8件に1件ほどあります。『持ってもいない商品を盗られた』と偽の被害届をしてくるケースには実は重大な共通点があって、告訴したうちのほぼ7割が“クロ”です。告訴すれば、空港の監視カメラはもちろん、購入したお店への調査、被害にあったといわれる物品と本人の照合写真の提示など、綿密に調査できます。ここ数年、この件の被害届は増えてきているので、行政と一体での対策も進めています」
たとえば、告訴してはじめて調査可能だった監視カメラの確認を、告訴することなく視聴できるなどの法整備が整っているという。ただ、前出のN村さんのように、実際に買った商品の“偽の被害届”に対するガードは難しいんじゃ?
「確かに、本人が購入したものを盗難されたと届けられても、それを見破るのは厳しいです。ただ、なかにはこれまで高級品を買ったこともない人が、旅行前に急に仕入れるケースも多くて……。やっぱり不自然な買い物って目立ちますよってことは声を大にして言いたいですね」
詐欺罪で告訴されて有罪になれば重い刑事罰が下されるだけでなく、民事でも、保険会社から多額の損害賠償が請求される。目先の小遣い銭欲しさに、人生を踏み外すことのないよう、十分注意してもらいたい。 <取材・文/スギナミ>
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