NYC現地ルポ「ドルに100円の価値はあるのか?」
これぞアベノミクス効果、だろうか。
為替レートのドル円が100円に近づいている。70円台をさまよい、60円、50円台までいくのではないかといわれていたのはつい昨年のことだ。ところが12月に第2次安倍晋三内閣が発足してから円は対ドルで急激に下落を続け、わずか4か月で100円付近にまで迫った。
しかし実際問題として、ドルには本当に「1ドル=100円」の価値があるのだろうか。アメリカで生活していると、あらゆる場面でそれが疑問に思えてくる。筆者は今、ニューヨークにいるので米国の中でも物価水準が高いのだろうが、それを割り引いたとしてもとにかくあらゆる物の値段が信じられないほど高い。
例えば、街中でコピーを取った場合。日本ならコンビニに行けば1枚10円でコピーができる。アメリカには一般的なコンビニにコピー機というものはないので“ビジネスコンビニ”と呼ばれるキンコーズなどでコピーを取るが、ニューヨークなら1枚13セントかかる。もし1ドル=77円ならちょうど10円になる額だ。
他に仕事関係でよく使うもので呆れ返るほど高いのが乾電池である。取材するときにIC録音機をいつも使用しているので単4の電池が必需品なのだが、日本では100円ショップで単4の乾電池4本入りが買えて、しかもそれが非常に長持ちし、IC録音機を毎日使っていても1か月半は持つ。ところがアメリカでは、単4電池4本入りが約6ドルである。しかも持ちが悪く、録音機を毎日使っていると1か月も持たない。それよりも長持ちするらしい良質な電池もあるが、それは単4が4本入って16ドルという信じ難い値段がついていた。
スーパーマーケットに行っても「えっ?」と思うものはたくさんある。例えばアイスクリームのお徳用6個入りパックは日本のスーパーなどで398円くらいで買えるものがほとんどだが、ニューヨークのスーパーで買ったら5ドル79セントした。これにニューヨークの消費税8.875%を加えると6ドルを超えてしまう。袋入りのキャンディも日本では150~200円くらいで買えるが、アメリカでは2ドル50セント~3ドルくらいする。
しかし、これはまだ許せる範囲内だ。驚くのは洗濯用洗剤である。アメリカでは洗濯用洗剤といえば液体洗剤が主流なのだが、普通の家庭用の洗剤1ボトル1.4リットル入りが10ドルくらいするのが相場。ドラッグストアを何軒も回ってようやくちょっと安いのが見つかったとしても7ドルはする。日本では1箱300~400円程度で高品質の粉末洗剤が買えて、1箱で多いものでは80回くらい洗濯が可能のようだが、アメリカの1.4リットルボトルは30回程度しか洗濯できなくてこの値段である。これが1ドル=100円だとしたら、到底納得できない。
さらに驚くのはアパートの家賃だ。ニューヨークは全米でも家賃相場が飛びぬけて高いので仕方がない面はあるのだが、あまりにも高すぎて家賃を払うアメリカ人の感覚がおかしいのではないかと思えてくる。もちろんニューヨークにも貧しい人はたくさんいて、不動産賃貸物件の中にはホームレスの人たちが優先的に入居できるアパートというのもある。ホームレス用なので家賃は格安に設定されており、そのため入居者の募集をかけると応募が殺到するので、入居者決定は抽選によって選ばれることになっているという。ホームレスが優先的に入居できるということは、定職がなかったり借金があったり経済的に苦しくても、当然厳しい審査は免除されるということだ。ニューヨークでは単身者用のワンベッドルームのアパートを借りる場合でも「年収4万5000ドル以上」のような条件をクリアしないと借りられない物件が多いので、ホームレス優先のアパートは非常に人気が高いというわけだ。
しかし、どれほど格安家賃なのかと詳細をよく見てみると、これがなんと月640ドルもする。1ドル=100円に換算すると6万4000円である。これはへたをすると、東京で一人暮らしをしている大学生や若い社会人よりも家賃が高い。ホームレスに月6万4000円の家賃が払えるのかという素朴な疑問も出てくるが、それに応募者が殺到するということはやはり格安なのだろう。となると640ドルの価値は、どう考えても3万~4万円程度ではないだろうかと思えるのだが、どうだろう。 <取材・文/水次祥子>
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