引退記念グッズもバカ売れ。桁違いの人気選手引退でMLBは「ジーターロス」
―[ジーター引退]―
ヤンキースのデレク・ジーター内野手が、20年のメジャー生活に終止符を打ち遂にフィールドから去った。
本拠地ヤンキースタジアムの最終戦でのフィナーレ、そして現役として本当に最後となったボストン・フェンウエイパークでの今季最終戦は、作りもののドラマをも超える劇的な出来事の連続だった。
⇒【前編】『ジーター引退に華を添えたイチローの「劇的な三塁打」』
ジーター引退の最後の数週間は、20年間のキャリアを称えた2本のCMが登場し、インターネットのトレンドになるなど大ブレイクし話題にもなった。
1本はナイキの「re2pect」。「respect(敬意を表する)」とジーターの背番号2を掛け合わせ、ジーターに敬意を表するメッセージが込められたもので、ニューヨーカーやライバル球団の選手、ファンはもちろん、マイケル・ジョーダンら各界の著名人が次々と登場し帽子のつばに手をかけている映像が流れる。
もう1本はスポーツ飲料ゲータレードのCM。ジーターがマンハッタンの街並みを眺めながらリムジンでヤンキースタジアムに向かっている途中、球場に近づいたところで突然、運転手に「You know what. I walk from here.(あのさ、僕、ここから歩くよ)」と告げ、車を降りる。歩いているジーターに通りすがりの人々が驚き、感激するといった様子がフランク・シナトラのマイ・ウエイの曲とともにモノクロ映像で流れ、最後は満員のスタジアムでカーテンコールを受けるジーターの姿で締め括るという、まるで映画のシーンのような作りになっている。
この2つのCMが象徴するように、ジーターは誰からも慕われ敬意を持たれるという点では他に類を見ない、超越した存在だった。
ナイキはCMだけでなくグッズのほうでも成功している。「re2pect」というキャッチフレーズが大流行し、この文字が入ったTシャツはジーターのグッズの中ではユニフォームに次いで大ベストセラーとなっている。このキャッチフレーズを生みだしたナイキの来期収益は15%アップが見込まれており、まさにジーター景気といったところだ。
その他の記念グッズも含めるとジーター引退関連の売り上げはすさまじく、メジャーリーグの公式サイトMLB.comでは、ジーターのグッズが引退イヤーの選手のグッズとしては過去最高の売り上げを記録しているそうだ。またスポーツメディア大手のESPN電子版によると、世界最大規模のスポーツグッズネット販売サイト「ファナティクス」は今年、ジーター関連グッズの売り上げが昨年より1000%も上昇。ヤンキースタジアム内のチームストアでのグッズ売り上げも今年は昨年比690%のアップ率だという。その経済効果の大きさは、まさに旋風のようなものだ。
因みにジーターのスポンサー契約料は米経済誌フォーブスによると、昨年実績でトータル900万ドル、今年は1000万ドルに上っている。ヤンキースでの年俸は1500万ドルであるため、収入の3部分の1はスポンサーからのものというわけだ。900ドルという額は、メジャーリーガーの中ではもちろんトップで、ロナウド、タイガー・ウッズ、フェデラーといった全世界のトップアスリートの中でも26位に入る。メジャーリーグでは2位がイチローで600万ドル(全世界アスリート中38位)、3位となるとジョー・マウアー(ツインズ捕手)の300万ドルで、全世界では50位以内に入らない。イチローのスポンサー契約が主に日本であることを考えると、ジーターの米国内での広告価値が野球選手の中でもいかに突出しているかがわかる。
ところでメジャー収益構造はどうなっているのかというと、グッズ売り上げなどは、MLBが取りまとめ各球団に平等に配分される。たとえジーターのグッズが全売上の半分を占めていたとしても、それは1球団ではなく全球団の収益になるというわけだ。ただし、ヤンキースタジアム内の店舗と球場外でも球団公式ショップで売り上げた分だけはヤンキースの収益になる。つまりジーターは、ヤンキースはもちろんメジャー全体の屋台骨を支える存在だった。
その球界の顔がフィールドを去った。ボストンでの最終戦、3回に代走を送られ交代したジーターは、大きな歓声とスタンディングオベーションを浴びながらも、思ったよりあっさりとグラウンドから立ち去りベンチの中へ消えていった。選手としてもう二度と、そこに戻ることはない。
メジャーリーグは今「ジーターロス」状態となった。ファンや仲間の選手や敵チームの選手の多くが、これからメンタル的に喪失感を味わうのはもちろんだが、その他の面でも失ったものはあまりにも大きい。
<取材・文・撮影/水次祥子>
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