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5度目の昇格を果たしたムネリンの“この1年”――大好きな野球を楽しむ。それしか考えていない

ムネリン昇格を報じるカナダ紙「ナショナル・ポスト」

ムネリン昇格を報じるカナダ紙「ナショナル・ポスト」

 ブルージェイズの川崎宗則内野手が、9月1日のメジャー出場枠拡大と同時に今季5度目の昇格を果たした。人気者のメジャー再昇格を地元ファンやメディアも歓迎し、久々にムネリンの話題で盛り上がっている。

 メジャーに移籍して4年目、ブルージェイズに移籍し3年目の今季は、ここまでなかなか昇格の機会がなかった。傘下AAA級のバッファロー・バイソンで開幕を迎え、最初に昇格したのが5月22日。だがメジャーに3日とどまっただけで同月25日にはマイナーに逆戻りし、5月31日に2度目の昇格を果たすが10日後の6月10日にはまたマイナーに戻り、6月19日に再び昇格し一週間後の6月26日にまたマイナーへ。8月1日に再度昇格を果たしたが8月9日にはまたマイナーへと、メジャーとマイナーの往復を4度も繰り返し、9月に再昇格するまで今季のメジャーでの出場機会は14試合に留まっている。マリナーズでプレーしたメジャー1年目の2012年が61試合、ブルージェイズ1年目の2013年が96試合、昨季が82試合に出場していただけに、今季は厳しいシーズンだったといえるのかもしれない。

 私は今季、マイナーでプレーする川崎選手を訪ねたことがある。まだシーズン序盤、頭部に死球を受け、脳振とうの可能性を考慮して大事を取り、故障者リスト入りしていたときのことだった。

 バッファローはニューヨーク州北西部でナイアガラの滝に近く、ブルージェイズの本拠地・カナダのトロントからも車で約1時間40分と近距離にある人口約26万人の都市だ。ダウンタウンの中心地にアムトラックの駅があり、列車から降りて駅を出ると、徒歩2~3分ほどの場所にバッファロー・バイソンズの本拠地コカコーラ・フィールドがあった。アメリカの都市の市街地というとゴミゴミとした寂れた雰囲気のところが多いが、バッファローは風光明美な上品なたたずまいの街で、中心部には歴史を感じさせる広場や、春には花見が堪能できる桜並木があった。コカコーラ・フィールドも、レトロ・クラシック調デザインの美しい球場だ。客席数約1万7000人とメジャーの球場に比べると収容者数は3分の1程度だが、施設の充実ぶりはかなりのものだ。最近はどこの球団もそうだが、マイナーの施設といってもメジャーと比べて大きく見劣りするようなところはなく、選手も不自由することなくトレーニングやプレーをする環境があるように思う。

 川崎選手はその球場で、いつも通りハツラツとした姿を見せていた。故障者リスト入りしている最中だったとはいえグラウンドでチームの練習に参加し、身振り手振りを使いながら大きな声でチームメートと言葉を交わしているのも普段通り。メジャーに上がったときもマイナーでプレーしているときも、変わらない姿がそこにあった。今季は昇格するチャンスをつかむことが難しい状況にあることを本人はどう感じているのか。聞きづらい質問だったが思い切って聞いてみると、川崎選手はこう言った。

「メジャーに上がる上がらないじゃなくて。それは僕が決めることではないので、僕は今この現状で、一生懸命やる。毎日野球をして、大好きな野球を毎日楽しむ。それしか考えていないですね」。

 今季のブルージェイズでは、川崎選手のこの精神がまさに必要なのだと思う。一昨年はア・リーグ東地区5位に低迷し、昨年は途中まで健闘したものの同3位に終わってポストシーズンとは縁がなかったが、今年は戦力を大幅に強化し、伝統ある王者ヤンキースと地区優勝争いでデッドヒートを繰り広げている。メジャーには25人の出場登録枠と40人のメジャー登録枠というものがあり普段メジャーのチームに入れるのは25人だが、川崎選手のように40人枠にいるメンバーはいつでもメジャーに昇格できる状態で控えている。優勝争いをするような選手層が厚く強いチームは特に、この40人枠内での選手の入れ替えも頻繁に行っており、25人というよりも40人で戦っている感覚がより強いと思う。今回、川崎選手が5度目の昇格となったのは9月にメジャーの出場枠が40人に拡大されたからだが、「戦う40人」のメンバーとして今季何度もメジャーに上がってきた川崎選手が、再び頂点を目指して戦う現場に戻ってきたのは当然のことだ。

 バファローを訪ねたとき、もうひとつ印象に残った川崎選手の言葉がある。頭部に死球を受けた後「野球以前の問題で、生きてるって素晴らしいなっていうことを改めて感じた」と話し、脳振とうの懸念から医者の診察を毎日受けなければならない状況に「ドクターとのやり取りが、僕にとってはデッドボールよりもキツイ。わけわからん。難しい英語なんで。そっちの方がきついかなという感じだった」と明かした。これまで経験したこともない苦難をいくつも乗り越え、22年ぶりのプレーオフ進出という期待が高まり最高の盛り上がりを見せる地元トロントでワールドシリーズを目指すチームの一員として戦う。日本からこれまで多くの選手が海を渡りメジャーでプレーしたが、こんな経験をする選手はなかなかいない。 <取材・文/水次祥子 TwitterID:@mizutsugi




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