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統計学はアタリをつけるための道具である【統計学入門4】

統計学が“最強の学問”だという。ならば数字オンチは最弱かよ!?とクサしたくもなるが、何かと根拠が求められる今、数字を避けては通れないのも事実。そんな「最弱リーマン」へ必要最低限の統計知識を、明治大学准教授で経済統計を専門にする飯田泰之氏、ビジネス数学コンサルタントの深沢真太郎氏、日産自動車に勤務し、経営課題解決プロジェクトに携わる柏木吉基氏の3人が解説! ⇒【前回】「関わりを見よ!」はコチラ https://nikkan-spa.jp/499846 <Step4.予測する>  あるドラッグストアチェーンで好調の2店舗。B店ではビラ配り、C店では購入者プレゼントを実施。それぞれの販売施策の売り上げとコストとの関わりは以下 ⇒【画像参照】「売り上げとコストとの相関係数」
https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=499968
統計学 相関係数0.8の購入者プレゼントは効果的のよう! ⇒【画像参照】「散布図」
https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=499969
統計学

相関が見られる散布図内中の点をどれか左クリックをし、「近似曲線の追加」をクリック。そこで「線近似」「グラフに数式を表示する」「グラフにR-2を表示する」を選択

 この関係を数値化すると、y=3.19x+48.210万円のコスト(x)で、約80万円の売り上げ予想が、売り上げ100万円のためには、16万円程度のコスト予想が。  そうなると次の戦略が立てられる! ◆関わりを数式にし未来を示す単回帰 統計学 B店が実施していたビラ配りと売り上げに相関関係はなかったが、C店の購入者プレゼントと売り上げには相関関係があることがわかった。しかし、この結果だけをもってして、「購入者プレゼントを実施しましょう! 100万円の予算をかけて!」と説得するのは難しい。 「2つの数字の結びつきの強さからさらに、その数値的な関係を明らかにする必要があります。『○円使うと、△円の売り上げアップがのぞめる』という具体的な数字が出てくることで、ようやくビジネスでの提案に使える分析になるのです」(柏木氏)  このとき、使うのが「単回帰分析」という手法。聞きなれない言葉にいっきに難易度が上がった気がするが、難しく考えることはない。相関データから散布図を作り、クリック2回でOK。エクセルが出してくれた数式に、数字を当てはめて計算すれば、未来の予想が立てられるのだ。  これを使えば、例えば、いくつかの販促施策のなかからどれが効果的なのかを比較することもできる。あるいは、営業部門で「訪問客数」と「売り上げ」に相関があるならば、売り上げ目標のために、どのくらい取引先を訪問すればいいかという行動目標を立てることもできる。 <単回帰> 回帰分析とは、ある変数を他の変数でどのように、どれくらい説明できるかを探る統計手法。上記の例で言えば、「売り上げ」を「販促施策」でどのくらい説明できるか、ということ。最もシンプルな場合、y=ax+bという式で表される。2つのデータを扱うのが単回帰で、データが3つ以上になると重回帰となる。重回帰になると、より複雑な分析が可能となるけれど、柏木氏によると、「周囲と数十人のメーカーのマネジャーにアンケートをとったら、単回帰を使ったという人が数人いた程度。ビジネスマンが日常的に使う分析は単回帰までで十分」 ●【統計学実践例】はコチラ https://nikkan-spa.jp/506449 ◆統計学はアタリをつけるための道具である  以上が、実践で使える必要最低限の統計知識。 「平均」(※参照 https://nikkan-spa.jp/499844)標準偏差」(※参照 https://nikkan-spa.jp/499845)相関」(※参照 https://nikkan-spa.jp/499846) に「単回帰」。  エクセルを頼れば、そんな難しいものではないとおわかりいただけただろうか。最後にセンセイ方から統計分析を使ううえでの注意点が。  まず第一に、導き出される数字はあくまでも過去のデータをもとにしたものだということ。 「過去のデータをもとに行った将来予測がどこまで有効かは、ケース・バイ・ケースです。例えば、動きの速いIT業界で過去10年間のデータをもとに予測をしても、果たしてそれが役に立つかどうか? 統計による分析がすべてではなく、あくまでも考えるベースだと認識するべきですね」(柏木氏)  前提が一定であるから、統計分析はその威力を発揮する。予測が大きく外れたときは、データを支える前提が変わった可能性にも目を向けなくてはならない。 「例えば、馬車の需要を統計的に予想したとします。どんなに精緻な計算を重ねたとしても、自動車が出てきた時点で“話は別”ですよね。あるいは、電球の売り上げ予想を過去50年分を徹底検証したとしても、LED電球の普及が始まった時点でやはり、“話は別”になる」(飯田氏)  結局のところ、どういうデータを選び出しどういう方法で分析するのか、導き出された数字をどう判断するのかは「その人のセンス」(柏木氏)。  それは、どんなにエクセルが優秀だとしても代わりにやってはくれない。 「日々の生活のなかで、なんとなくでとらえていたことを数字を使って考える習慣をつける。その積み重ねでセンスは養われる」(深沢氏)もの。 「ただ、統計を使うと、何でも正確にできて大きく間違えずにすむと考えている人も多いですが、本当の意味での利点はそこではありません。数字はあくまで、アタリをつけるための道具。確かに結果として失敗するリスクは低くなるけれども、逆にうまくいかなかったとしても仕方がないよねと理解を得やすくなるんです」(同)  数字を絶対視せず、統計分析を便利な道具として扱えるのがいいあんばいかも。ま、それくらいが、我らには十分(限界)です。 ●【統計学実践例】はコチラ https://nikkan-spa.jp/506449 【飯田泰之氏】 明治大学政治経済学部准教授。『考える技術としての統計学』、『経済学的思考の技術』など著作多数。その経済統計の手腕は本誌連載「週刊チキーーダ!」でもお馴染みで、9月にこれまでの調査分析データをまとめた本が刊行予定 【柏木吉基氏】 日産自動車組織開発部ビジネス改革チームマネージャ。経営管理、数値解析、意思決定論を専門に執筆・指導なども行う。著書に『「それ、根拠あるの?」と言わせないデータ・統計分析ができる本』『Excelで学ぶ意思決定論』などがある 【深沢真太郎氏】 BMコンサルティング代表、ビジネス数字・カレッジ学長。ビジネス数学を専門に、企業や大学でコンサルティング活動を行い、これまで約3000人に指導。著書に『「仕事」で使える数学』『数学女子智香が教える仕事で数字を使うって、こういうことです。』がある 取材・文/志賀むつみ 島影真奈美(馬場企画) 古澤誠一郎 イラスト/YAGI 参考文献/『「それ、根拠あるの?」と言わせないデータ・統計分析ができる本』(柏木吉基/日本実業出版社)、『考える技術としての統計学』(飯田泰之/NHK出版)、『数学女子智香が教える仕事で数字を使うって、こういうことです。』(深沢真太郎/日本実業出版社)、『現場で使える統計学』(豊田裕貴/阪急コミュニケーションズ) ― [超実践]偏差値45からの統計学入門【4】 ―
現場で使える統計学

数字の裏を見抜く、数字に惑わされない。仕事がデキる人の、これからの必須ツールは「統計力」。

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