標準偏差でビジネスのリスクがわかる【統計学入門2】
統計学が“最強の学問”だという。ならば数字オンチは最弱かよ!?とクサしたくもなるが、何かと根拠が求められる今、数字を避けては通れないのも事実。そんな「最弱リーマン」へ必要最低限の統計知識を、明治大学准教授で経済統計を専門にする飯田泰之氏、ビジネス数学コンサルタントの深沢真太郎氏、日産自動車に勤務し、経営課題解決プロジェクトに携わる柏木吉基氏の3人が解説!
⇒【前回】「平均からの卒業」はコチラ https://nikkan-spa.jp/499844
<Step2.バラツキを知る>
◆バラツキ=標準偏差で平均からのズレを見る
極端な数字にひっぱられるなど、欠点も多い平均値だけれど(※前回を参照)、平均を基準にして、そのデータにどれだけのバラツキがあるかがわかると、そのデータの全体像がもう少し見えてくる。
その「バラツキの大きさ」を見るのが、「標準偏差」というものらしい。これが結構、便利な代物らしく、まず、標準偏差を使えば、平均値だけで判断することのリスクがわかる。
「平均値を基準として、プラス方向・マイナス方向にどのくらいの広がり幅があるのかを、数値化したものが標準偏差です。平均に近いところにデータが集中していれば、標準偏差の値は小さくなりますし、逆に大きければ、データにバラツキがあるので、平均値だけでは物事を測れない分布だなとアタリがつけられます」(深沢氏)
例えば、あるドラッグストアチェーンのPB(プライベートブランド)商品の体重計と血圧計の販売数の平均を出した。
・A店/体重計:35 血圧計:11
・B点/体重計:72 血圧計:85
・C点/体重計:80 血圧計:80
・D点/体重計:22 血圧計:31
・E点/体重計:45 血圧計:27
・体重計の平均/50.8
・血圧計の平均/46.8
が、その標準偏差を見てみると……
・体重計の標準偏差/21.9
・血圧計の標準偏差/29.9
血圧計の標準偏差は29.9とデカい。つまり、こんなバラついたデータの平均だけを見て戦略を立ててもあまり意味がないな、という判断ができるわけ。
⇒【図解】はこちら(https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=499941)
あるいは、こんな使い方も。
「平均にある程度固まっていると、正規分布(※下記参照)を描きます。平均から標準偏差±2個分の範囲から飛び出るような数字が出たとき、『何か前提が変わる環境の変化が起きたのかな?』と考えることができる。株式投資などをする人はご存じかもしれませんが、ボリンジャーバンドというテクニカル分析が標準偏差のこの考え方を用いたものです」(飯田氏)
◆標準偏差でビジネスのリスクがわかる
つまり、標準偏差で、ビジネスにおけるリスク、裏返せば強みが数字でわかるのだ。
「例えば、あなたがお弁当屋さんだとします。一日平均50個が売れ、標準偏差が8だとしたら……売れない日では平均42個、調子のいい日には58個が出る。この予測が立てられることで、ロスの少ない経営ができますよね」(飯田氏)
また、こうも考えられる。月の平均売り上げ300万円のビジネス。その額だけを見たら、「なかなかやるな!」とも思えるが、標準偏差200万円と聞いたらどう思うか? リスクが大きすぎる商売だ、と判断できるだろう。
「かつてのように、顧客の大多数が日本人という市場だったら『こんなものだよね』という共通認識があり、平均だけでもそう大きなハズレはなかったかもしれません。しかし、今では一つの数字で物事を表せなくなっており、多面的に見ていく必要が出ている。平均だけでなく、標準偏差を組み合わせることで、プレゼンをするときのツッコまれどころも減り、自分の主張も盤石なものになる」(柏木氏)
で、この標準偏差、その計算方法はというと……各データと平均の差=偏差を出して、その2乗の総和をデータ数で割り「分散」を算出し、√分散が標準偏差……って、あ、わからん!
「エクセルを使えば1秒で出てきますよ(笑)。計算式はわからなくても、標準偏差が何を示すのかを説明できれば十分です」(同)
※エクセルの操作法⇒https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=499941
あーひと安心。
⇒【次回】「関わりを見よ!」に続く https://nikkan-spa.jp/499846
●【統計学実践例】はコチラ https://nikkan-spa.jp/506449
<標準偏差>
個々のデータの平均値との差が「偏差」。偏差の2乗の総和をデータで割ったものが「分散」。分散を√に入れたものが「標準偏差」。そのデータの全体がどれだけバラついているかを数値で示してくれ、データ全体の状況をまず簡単に把握することができる。本特集のタイトルにある「偏差値」も、標準偏差を用いて計算される。
<正規分布>
平均値のところに多くの数値が集まっている分布のこと。正規分布であれば、平均から標準偏差±1の範囲に全体の68%のデータが収まり、標準偏差±2の範囲に95%の値が収まることになる。正規分布は左右対称のキレイな釣り鐘型をしているが、標準偏差が大きい=バラツキの多いデータだと、裾野の広い小山のような形になる。
⇒【グラフ】「正規分布」はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=499952
【飯田泰之氏】
明治大学政治経済学部准教授。『考える技術としての統計学』、『経済学的思考の技術』など著作多数。その経済統計の手腕は本誌連載「週刊チキーーダ!」でもお馴染みで、9月にこれまでの調査分析データをまとめた本が刊行予定
【柏木吉基氏】
日産自動車組織開発部ビジネス改革チームマネージャ。経営管理、数値解析、意思決定論を専門に執筆・指導なども行う。著書に『「それ、根拠あるの?」と言わせないデータ・統計分析ができる本』『Excelで学ぶ意思決定論』などがある
【深沢真太郎氏】
BMコンサルティング代表、ビジネス数字・カレッジ学長。ビジネス数学を専門に、企業や大学でコンサルティング活動を行い、これまで約3000人に指導。著書に『「仕事」で使える数学』『数学女子智香が教える仕事で数字を使うって、こういうことです。』がある
イラスト/YAGI
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