親の子離れは、子の親離れよりも難しい――娘が旅行に出かけただけで痩せ細った母親
【佐藤優のインテリジェンス人生相談】
“外務省のラスプーチン“と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに、読者の悩みに答える!
◆ボケテ(ペンネーム)事務員 女性 26歳
現在、母と犬と3人暮らしです。父が亡くなって以来、母はスナックを経営しながら、私を育ててくれました。そんな母を私は尊敬しているのですが、最近、不安なことがあります。
以前から母は私のことを心配して、毎日4~5回は電話してきては、「何してるの?」とたわいもないことを確認してきたのですが、先日初めて私が海外旅行に行った際には一日の電話の回数が20回にも及び、気づくと「連絡しなさい!」というメールでフォルダが埋まっていました。
また、私が帰国すると母はゲッソリやせていました。私と連絡が取れないだけで、食べ物がのどを通らなくなってしまったようです。どうも、極度の依存症に陥っているような気もします。今はすっかり元通りですが、また同じようなことが起きないかと心配になります。私はどうすべきでしょうか?
◆佐藤優の回答
親の子離れは、子の親離れよりも難しい問題です。ボケテさんが初めて海外旅行をしたときにお母さんが一日に20回も電話をしてきたということですが、このこと事態はそう珍しくありません(もっともフォルダが満杯になるほどメールを送ってくるのは、少し過剰な感じがします)。また、一日に4~5回、子供に電話をしてくるお母さんを私の周囲でもときどき目にします。
ロシア人の場合、いつまでも親に頼る子供、子離れしない親が多いです。これは最近になって起きた現象ではなく、昔からあるようです。19世紀の文豪ドストエフスキーの『罪と罰』の主人公ロジオン・ラスコーリニコフと母親プリヘーリヤの関係がまさにそうです。母親はロジオンにこんな手紙を書いています。
<「愛するわたしのロージャ」(引用者註※ロジオンの愛称形)と母は書いていた。「おまえと手紙で話し合うことがなくなってから、もう二カ月あまり経ち、辛さのせいで、あれこれ思い悩んで、まんじりともできない夜があったはずです。でも、きっと書きたいのに何も書けずにきたわたしを、おまえは責めたりしないでしょう。どんなにおまえを愛しているか、おまえもわかっているはずですし、おまえは、わたしたちの、わたしとドゥーニャ(※ロジオンの妹)の、たったひとりの男の身内ですし、わたしたちのすべて、希望のすべて、わたしたちの期待の星なのですから。生活がたちゆかなくなって、自分の面倒をみる手だてすらなくなって、もう数カ月も大学に行かずにいること、家庭教師やほかの収入の道もとだえてしまったと知らされたときの私の気持ちはどんなだったか! でも百二十ルーブルの年金で暮らしているわたしに、どうやっておまえを手助けできたでしょう? 四カ月前におまえに送った十五ルーブルのお金も、知ってのとおり、この年金をかたに、町の商人であるアファナーシー・ワフルーシンさんからお借りしたものでした。>(『罪と罰 1』75~76頁)
ロジオンは、家庭教師や翻訳でその気になれば自活できます。それなのに親に甘えています。プリヘーリヤも、自分たちの生活が食うや食わずの貧困状態にあるにもかかわらず、借金までしてロジオンに仕送りしています。この歪んだ母子関係が、ロジオンが「俺は絶対に正しいので、高利貸しの老女を殺害して金を奪っても構わない」という独り善がりの思想に取り憑かれ、殺人を犯す遠因になっています。
ボケテさんは、現在のお母さんとの生活が苦しいでしょうか。苦しいのならば、家を出て自活すればいいと思います。「それじゃ母が可哀想だ」と思うならば、家にとどまり、お母さんと適度の距離関係を構築する努力をすればいいと思います。もっとも「母が可哀想だ」と思う背後には、あなた自身がお母さんから離れることができないという問題も潜んでいます。
【今回の教訓】
あなたが親離れできてない問題も潜んでいる
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【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『読書の技法』『日本国家の神髄』など著書多数 (※写真はイメージです)’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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