スポーツ

【プロ野球トライアウト2013潜入リポート】ベテランと落合GMに注目集まる

 プロ野球で戦力外になった選手たちが「再雇用」を目指して、球界関係者に自らをアピールする「NPB12球団合同トライアウト」が10日、静岡・草薙球場で行われた。

 近年では東山紀之の某番組の影響もあってか、この「イベント」の注目度はうなぎのぼり。記者が午前8時に現地についた時点で、すでに1000人ほどの長蛇の列ができていた。「曇時々雨・降水確率70%」生憎の天気予報が出ているなかで、この熱気。入り口では参加選手の所属チームと経歴が書かれたパンフレットが配られ、選手が受付をする正面入口は、選手を待ち構えるファンと、それをカメラに収めようとする報道陣でごった返していた。

⇒【フォトレポート】はこちら http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=536001

 午前9時。スタンドは予定を1時間早めて開場。アップを始めた選手を間近で見ようと、内野にせり出した”エキサイティングシート”にファンが殺到する。DeNAを戦力外となった細山田、内藤には応援旗とユニフォームが掲げられ、ファンが「頑張ってください!」と熱い声援を送っている。

「濱の司令塔 細山田武史」気合の入ったTシャツで、前横浜細山田捕手に声援を送るファン

 今回のこのトライアウト、12年目にして12球団の本拠地、もしくは2軍の施設以外で行われるのは初めて。昨年まではあくまで関係者向けの”内覧会”要素が満載で、ファンにはおまけで1000席ほどがあてがわれる程度だったのが、今回は内野席が全面無料開放。昨年改装した草薙球場の内野スタンドは、あっと言う間に満席になった。弁当や飲み物のブースができ、そこにも絶えず行列が。午前10時半のシート打撃開始時には、小雨が降りだしたにも関わらず、ファンは帰ることもなく、合羽や傘をさして”熱戦”をじっと見守った。

集められた選手に、スケジュールと注意事項が発表された

 前々日に発表された、67名の参加選手リストのうち、今回の目玉選手のひとり、前巨人の谷佳知が事前の「古巣オリックスに復帰」報道を裏付けるように、不参加。その旨が場内にアナウンスされると「あ〜」と溜息が場内を包んだ。

◆独立リーグの選手も参加

 トライアウトにはNPB所属選手のほかにも、以前にNPB所属した、現在は独立リーグ所属の選手も参加する。どちらかと言えば、派手で、見慣れないユニフォームに子供たちが「あれ何?どこのチーム?係員の人?」などと正直な感想を口にしている。

バックネット裏の特別席にはスカウトや関係者が

 投手は打者4人に対して、打者は4打席を随時守備に就きながら、1-1からのカウントから勝負をする。雨が降り出し、グランドコンディションが悪くなるなかで、投手がコントロールを乱すことも多かった。1回もバットを振ることなく「フォアボール」で1塁に歩くと、なんとも重苦しい雰囲気が球場を支配する。四球で歩いても、打者も、投手もアピールポイントにならないのは明らかだからだ。

 四球で歩きたくないので、打者も少々の悪球でも打ちにいく。そのせいか快音が響くことは少なかった。普段の試合とは違った「敵も味方もない」状況。しかし、ファンから「次、がんばれ!」と声援が飛ぶ。そのなかで目立ったのが前阪神の林威助。浅井良、野原将志とともにタテジマのユニフォームにはひときわ大きな声援が飛ぶ。「リンちゃん!頑張って!」その声に背中を押されるように、センターのフェンスを直撃する三塁打を打つと場内は拍手喝采。林もはにかむような笑顔を見せた。

◆観衆1万人を集めるも、雨天で途中打ち切り、非公開に

 12時。36人中、15人の投手が投げ終えた時点で、グラウンドコンディション不良のため、屋外でのトライアウトは終了とアナウンス。最終的に1万人にまで膨れ上がったファンからは大きなため息が漏れた。ここからは室内練習場で、ファンには非公開でトライアウトが継続されからだ。

すると、ワゴン車に分乗して室内練習場に移動する選手を撮影しようとする報道陣に異変が。別室で視察をしていた中日・落合博満GMを「出待ち」するカメラマンでごった返していた。

トイレに行くだけで報道陣に囲まれる中日・落合GM

 その横を直前の打席で右中間に二塁打を放ち、滑りこんでユニフォームを泥だらけにして拍手を浴びていた、楽天・高須洋介(37歳)が「すいません、すいません」と申し訳なさそうに通る。すると一斉にフラッシュが。「おいおい、便所にいくだけなんだから……」と苦笑いをしながら、マスク姿の落合GMが足早にトイレに駆け込んでいく。トイレから出ても再びフラッシュの放列、今もっとも球界で注目される男のスゴさを見た瞬間だった。

ボストン・レッドソックスのスカウトと思われる外国人も

 また、一方ではボストン・レッドソックスのスカウトと思しき外国人が取材をされていた。米球界に渡る人材はいるのだろうか。

 12時30分、室内練習場でトライアウトが再開された。四方をネットに囲まれた人工芝が引かれた体育館に急増のマウンドが作られている。聞けば、このトライアウトがこの室内練習場のこけら落としだという。将来、プロ野球球団を招致したい静岡市と静岡県の並々ならぬ意気込みを見た。

◆ベテラン投手に落合GMも鋭い視線

 ここからは非公開ゆえ、異様な静けさと重苦しさが開場を支配する。ネットの周りには各球団の関係者、そして報道陣が取り囲み、バッティングセンターのような環境で、投手と打者の1対1の勝負が繰り広げられる。守備や走塁はなく、そこでアピールしたい選手には気の毒な環境だ。「がんばれ!」「ナイスピッチ!」「ナイバッチ!」さっきまで聞こえていた屋外での声援が懐かしく感じるほどの息苦しさ。投手の球がミットに収まる音と、それを捉えた時のバット音しか聞こえない。

独立リーグ・石川ミリオンスターズで営業も務める、45歳の木田優夫。昨年に続き2度目の”挑戦”だ

 その中で会場の雰囲気を一変させた男がいた。巨人、オリックス、米マイナー、ヤクルト、日本ハムを渡り歩き、現在は独立リーグ石川ミリオンスターズで投手兼営業として奮闘する45歳の木田優夫だった。

 見慣れぬ紫色のストライプに背番号12を背負い、マウンドに上がると一斉にカメラが投球を追い、関係者もざわついた。昨年に続き2年連続、そして最年長の挑戦。昨年はトライアウトで元横浜で格闘家でもある、古木克明との対戦で注目を集めたりもした。4人と対戦し、フォークで空振りの三振を2つ奪い、安打性の当たりは1本だった。偶然記者の横で視察していた、野球評論家で石川ミリオンスターズ取締役、そして木田と同い年の佐野慈紀氏が小さく「木田、がんばれ、がんばれ」と言っていたのが印象的だった。ファンの前だったら、恐らく最も声援を浴びた選手の一人に違いないだけに残念でもあった。

タイガース時代のユニフォームで投げた、元・阪神の小林宏之(35歳)。現在は独立リーグ・群馬ダイヤモンドペガサスでプレーしている

 懐かしい顔もあった。元阪神の小林宏之(35歳)だ。’12年に阪神を戦力外となり、今春、エンゼルスとマイナー契約を結んだがリリース。現在は群馬ダイヤモンドペガサスでプレーしている。小林が身を包んでいたのは阪神の「41」のビジターユニフォーム。林や浅井の阪神勢がホームの縦縞に身を包んでいたゆえの、彼なりの美学だったに違いない。結果は4人に対し無安打だったが、制球に少々バラつきがあった。

5時間に及びネット裏で鋭い視線を送っていた落合GM。終了後、報道陣の取材に応じた

 15時、36人目の投手が投げ終え、5時間に及んだトライアウトは終了。その瞬間、再び注目を浴びたのは落合GMだった。記者に囲まれると、ボソボソと独特の落合節を披露した。「屋外と室内じゃ見るポイントは違うんだけれども、この山のなかからどうやって探し出すか。ここにいちゃいけないメンバーもいたな。面白い存在がいっぱいいる」と過去にトライアウトで選手を獲得し、再生してきただけに前向きな発言だった。「チームにマッチする選手は?」という問いには「最後まで待っておく。残ったときにどう動くか……」とGMらしく、他球団の動向と予算を見極める旨の発言を残し、会場外で待ち構えたファンと報道陣のフラッシュを浴びながら、タクシーで会場を颯爽と後にした。

 ファンへ非公開となってから、こうしたベテランの選手が出てきたのは残念だったが、熱心なファンは会場の外でじっと待って、球音を聞いていた。プロのプライドをかけた「大勝負」は終わった。記者の感想としては、淡々としていたというのが正直な印象だ。投げ損じても、打ち損じても感情を露わにする選手はひとりもいなかった。実際、昨年は合格者は6人と年々「狭き門」となってきている。ユニフォームを脱ぐのも、着続けるのも自分の意思。そんな静かなるプロのプライドを感じた1日だった。

<取材・文・撮影/遠藤修哉(本誌)>

ハッシュタグ




おすすめ記事