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ハスラーブーム、再び!? ビリヤードビジネス復興物語

ビリヤード, 趣味 86年、トム・クルーズとポール・ニューマンが主演の米映画『ハスラー2』が公開されると、日本中が空前のビリヤードブームに沸き立った。時はバブル、巷には、酒を飲みながらビリヤードが楽しめる「プールバー」が林立し、“ワンレン・ボディコン”スタイルの女子大生やOLが大挙して押し掛けた。いい女が集まる場所には当然、男たちも吸い寄せられる。そんなわけで繁華街のビリヤード場やプールバーはどこも大盛況、2時間待ち、3時間待ちもザラだった。  ところが、バブルの崩壊とともにブームは去り、多くのビリヤード場やプールバーが姿を消し、カラオケボックスやチェーン系の居酒屋などに取って代わられた。その後、90年代に入ると日本の景気はどんどん後退。ビリヤードは一部ファンだけがひっそりと楽しむ「地味な趣味」の地位に甘んじていくことなる。  こんなビリヤード「冬の時代」に、「ビリヤードをビジネスにする!」と立ち上がった1人の若者がいた。楠城規之氏(38歳)だ。  彼は今から10年前、28歳のとき、アメリカ最大のアマチュアビリヤード団体であるAPA(アメリカン・プールプレイヤーズ・アソシエーション)の本部に単独で乗り込み、「日本支部を俺につくらせてくれ」と幹部に直談判。さまざまなハードルを乗り越え、06年、日本支部運営の権利を得た。それが現在、楠城氏が代表を務めるJPA(ジャパニーズ・プールプレイヤーズ・アソシエーション)である。  それにしても、なぜビリヤードだったのか?
ビリヤード, 趣味

「最近は女性ハスラーも増えてきています」(楠城氏)

「当時、ぼくはシアトルの大学に留学中で、近所のバーで玉を突いていたんです。そのバーはマイクロソフト本社の近くにあり、社員たちの溜り場になっていました。そんなある日、マイクロソフト社員のチームから声をかけられたんです。“どうだ、うちのチームに入って一緒に戦わないか?”と。喜んで参加させてもらったんです」  これが最初のきっかけだった。 「アメリカは日本では考えられないくらいのビリヤード大国なんです。街のバーには当たり前のようにテーブルが置いてあるし、ビリヤード場もすごく多い。余暇としてのビリヤードが人々の生活に深く根付いているんです。マイクロソフトのチームも所属していたAPAは、アマチュア最大の団体で、メンバーは全米で28万人もいます。アマチュアなんだけど、毎週エリアごとに試合が行われていて、勝ち上がっていくと賞金も出る。  そして、クライマックスが毎年8月にラスベガスで開催される世界最大のアマチュアトーナメント大会“APA National Team Championship”です。約1万人ものプレイヤーが一同に会し、300台以上のテーブルが置かれた巨大な会場で、トーナメントを戦って頂点を目指す。ぼくもマイクロソフトのチームの一員としてこの大会に参加しましたが、とにかくその圧倒的な規模と迫力を目の当たりにし、鳥肌が立つほど感激しました。でも、1万人以上もいるのに、日本人が1人もいないんです。アマチュアの大会はチーム戦(1チーム5名)で行われます。アメリカは個人主義の国ですが、日本はグループ主義の国。本来、このシステムに向いていると思ったんです。“ここに日本人を連れてきたい”。そしていつか、日本からチャンピオンチームを出したい。そう思ったんです。その気持ちがぼくの原点ですかね」(楠城氏)  APAは、アマチュアの親睦団体とは違い、明確な「営利団体」として運営されている。大学で経営学を学んでいた楠城氏は、そこに大きな魅力を感じたという。 「ビリヤードが大好きという気持ちがまずあって、そのうえで、APAのビジネスモデルに惹かれました。会員からプレイフィーを取って、そのお金でトーナメントを運営。賞品や賞金も出す。  ただ遊びでプレイするよりも、目標があったほうが楽しいし、やる気も出ますから、どんどんAPAのメンバーは増えていきました。こうしてビリヤード人口が増え、会員の数が増えていけば、自然と収益もあがっていきます。これだ、と思いましたね。これを日本でやってやろうと」  楠城氏はその後、APA方式の運営をするためのビジネスプラン作りに没頭。完成したプランを手に、APAの本部を訪れた。 「幹部たちも最初は、どこの馬の骨ともわからない東洋人が何しに来たんだ、という感じだったと思うのですが、一生懸命、“おれにやらせてくれ”、“絶対に成功させる自信がある”と訴えるぼくの熱意に負けたんでしょう。最後は社長から、“ノリには情熱がある。日本はお前に任せよう”と言われました」  フランチャイズ契約の口約束は取り付けたが、ここから先が大変だった。 ※【後編】に続く「劇薬の治験で資金調達!?」 https://nikkan-spa.jp/591305 <取材・文/日刊SPA!取材班>
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