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「“本当の1位”の味を知りたい」羽生選手が著書で語った理想の王者像

羽生結弦選手

五輪前に、羽生選手がプルシェンコ選手への熱い思いと交流を語っていた自叙伝『蒼い炎』(扶桑社)

 ソチ五輪で日本のフィギュアスケート史を塗り替えた、男子シングル初の金メダリスト羽生結弦選手。

 彼が7歳の頃から「僕のヒーロー」と憧れ続けた、ロシア代表のエフゲニー・プルシェンコ選手と団体戦で初対決することについては、以前にも日刊SPA!で紹介したとおり。(https://nikkan-spa.jp/583270

 羽生選手の自叙伝『蒼い炎』(扶桑社刊)の中でも、プルシェンコに対する強い憧れが綴られている。羽生選手とプルシェンコの熱血スポーツ漫画のような熱い関係を同書から引用してみよう。

◆プルシェンコ「俺に勝て! 俺を越えろ!」

「プルシェンコさんのことも、子どものころからずっと好きで、(略)ショーの合間に4回転のアドバイスをしてくれたり、ビールマンスピンのコツを教えてくれたりも! そのせいで奥さんに怒られたらしい……。だから最近は、奥さんのいないところで教えてくれます(笑)」

羽生結弦選手

2004年9歳、プルシェンコに憧れてマッシュルームヘアにしていたころ。 (「蒼い炎」より 羽生さん提供)

「最近はプルシェンコさん、会うたびに『俺に勝て!』って言うんですよ。『君の力をもっと見せてよ』、そして『俺を超えろ!』と。もう、かっこ良すぎますよ! 『次に試合で会う時は、敵だからね』って」

「プルシェンコさんも、僕に期待をしてくれてる。ならばせめて、その期待にこたえられる選手になりたいです。彼を超えられるかどうかなんて、わからない。でもちゃんと選手同士として戦い合える、お互い刺激し合える、そこまでの存在にはなりたい。プルシェンコさんは本当に自分の世界を持っている人だから、たぶん試合では、他の選手のことなんて気にしないでしょう。僕なんかが刺激になるなんて、難しいかもしれない。でも僕は、どんなに上のレベルに行っても、強い選手がいてくれると燃えるから。プルシェンコさんにとってのそんな存在、『燃える存在』に、少しでも近づけるようになりたいです」

◆皇帝の帰還と、王者の戴冠

羽生結弦選手

2007年12歳、全日本ジュニア選手権で「火の鳥」を演じる。 (「蒼い炎」より(C)能登 直)

 羽生選手が見惚れたソルトレークシティ五輪での勇姿から12年――。

 ケガを乗り越えてカムバックしたプルシェンコは、団体戦のショートプログラムで、鋭い4回転―3回転をはじめとする貫禄の演技で会場を大いに沸かせた。

 だが、演技を終えた皇帝の目の前で、今度は羽生選手が完璧な4回転を決める。堂々たる「パリの散歩道」を披露してプルシェンコの得点を抜き、一躍トップに。この結果を受けてプルシェンコは、「私は彼のヒーローだったかもしれないが、今は彼が私のヒーローだ」とまで賛辞を送ったのだ。

 ところが、直接対決が注目された個人戦で、なんとショートプログラムの直前練習中にプルシェンコが腰を痛めて無念の棄権。

 一方、羽生選手は、初めての五輪とは思えない度胸で、世界歴代最高得点(101.45)をマークして首位に。フリーでは緊張感からかジャンプミスを連発し、完璧とはいえない出来だったものの、世界選手権3連覇中のパトリック・チャンを打ち破り、みごと金メダルを獲得した。

 羽生選手は翌日の会見で、プルシェンコが棄権したことについて、「プルシェンコ選手に憧れて僕も五輪を目指した。棄権して残念だったが、団体で同じ舞台で滑って夢のような感覚。今までたくさんの感動をいただいてきたので、感謝の気持ちを伝えたい」と発言。

 一方のプルシェンコも自身のツイッターで、「ユヅル・ハニュウは私のアイドルだ。よく頑張った。彼は天才だ」と互いを賞賛しあったのだ。

 まさに銀盤のプリンスが王者に。そしてフィギュアスケート界を牽引してきた皇帝からその功績を称えられ、戴冠された瞬間だったといえよう。

◆「本当の1位」の味を知りたい

 19歳にして夢だった五輪金メダルを掴みとった羽生選手。しかも皇帝プルシェンコの点数を越えてしまったことで、今後のモチベーションが気になるところだが……。

 フリーの演技直後には「悔しい。自分の演技に満足していない」と、金メダルの歓びよりも悔しさが勝るほどの完璧主義ぶりを見せた新王者。

「今後はプルシェンコ選手みたいに、どんな時でも、どんな場所でもノーミスできるくらい強い選手になりたいと思っている」

 会見でこのように語った羽生選手だが、前述の著書『蒼い炎』の中でも、そうした理想が熱く綴られている。

「僕がプルシェンコを英雄として尊敬しているのは、やはり彼が勝ち続けているからです。彼は一度勝って満足してる選手ではない。一回ではまぐれだったり、奇跡だったりするかもしれないし、やはり勝ち続けることにこそ、意味があります。(略)やっぱり一番かっこいいのは、全員がパーフェクトで、その中で勝つということ。そんな『本当の1位』の味を知りたいんです。だから一度の優勝では満足せず、勝ち続けて、いつかは完璧な優勝をしてみたい」

 ソチ五輪では4年に1度の重圧からか、ほとんどの選手がありえないミスを連発した。

 3月下旬にはさいたまで世界選手権が開催される。羽生選手にはぜひここで五輪の悔しさを晴らして、“完璧な優勝”の姿を見せてほしいものだ。

<取材・文/日刊SPA!アイススケート取材班>
引用元「蒼い炎」(http://www.fusosha.co.jp/Books/detail/670





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