雑学

日本ってホントにプロレス先進国?――「フミ斎藤のプロレス講座」第5回

 この連載コラムも今週で5回め。これまでWWEに関するおはなしばっかりだったせいか「そろそろ日本のプロレスのことも読みたいです」というリクエストが読者の方からも編集部のほうからもあったので、今回は日本のプロレス事情について考えてみたい。

 かつて、日本は“世界一のプロレス先進国”と呼ばれていた。どのくらい“かつて”なのかというと、もう10年以上まえなのかもしれないし、ひょっとすると20年くらいまえのことかもしれない。

斎藤文彦

斎藤文彦

 いったいだれが日本を“世界一のプロレス先進国”ととらえていたのかというと、それはアメリカやヨーロッパのプロレスラー、プロレス関係者、プロレスファンだった。日本、というよりもジャパン――The Land of the Rising Sun日出づる国――は、かつてアメリカやヨーロッパのプロレスラーにとってプロミスト・ランド(約束の地)であり、ドリームランド(夢の国)だった。

 ジャパンではネットワーク・チャンネル(民放地上波のテレビ)で毎週、プロレス番組が放送されている。衛星放送ではプロレス専門チャンネルもある。東京ドームや日本武道館クラスのアリーナで毎週のようにビッグショーが開催されている。電車や地下鉄の駅で売られている新聞には毎日、プロレスの記事や試合結果が載っていて、週刊、月刊のプロレス雑誌も数えきれないくらい発行されている。プロレスラーは野球選手やサッカー選手と同じようなランクの社会的ステータスに位置づけられているスポーツ・セレブリティーで、テレビをつけると毎日のように人気レスラーがトークショー、バラエティー番組、クイズ番組などに出演している。引退後に政治家に転身した選手もたくさんいる……。

 たしかに、まちがいではないけれど、かなりデフォルメされた情報でもある。かつてはジャイアント馬場さんの全日本プロレスとそこから独立したプロレスリング・ノアが日本テレビ系列で、アントニオ猪木さんの新日本プロレスがテレビ朝日系列で、全日本女子プロレスがフジテレビ系列でそれぞれレギュラー番組を放映し、テレビ東京やフジテレビがアメリカのプロレスの日本語版を放映していた時代もあったが、現在でも民放地上波のネット局でレギュラー番組(30分ワクの深夜番組)を持っているのは新日本プロレスだけだ。その新日本プロレスも、厳密にいうと“アントニオ猪木の新日本プロレス”ではない。

 アメリカのレスラー、関係者、プロレスファンがニュースペーパーととらえている東京スポーツ、日刊スポーツ、スポーツニッポンなどに代表される駅売りの新聞各紙は、ジャパンだけに存在する“スポーツ新聞”というタブロイド・メディアであり、フツーに日本に住んでいるフツーの日本人はこれらをフツーの新聞というふうには考えない。駅売りのスポーツ新聞の“賞味期限”は基本的には電車に乗ってA地点からB地点まで向かっているあいだだけで、情報そのものの寿命はとことん短い。

 そのスポーツ新聞各紙も近年はプロレス、格闘技関連のニュースにそれほど大きなスペースを割かなくなっているし――これはプロレスだけの問題ではないけれど――ここ10年ほどのあいだに数紙が“休刊”“廃刊”になった。じっさい、スマートフォンの時代になってからは電車のなかでスポーツ新聞を広げているオジサンたちの姿をほとんどといっていいくらい見かけなくなった。

 専門誌(紙)はかつて“週刊3誌”と呼ばれていた週刊プロレス、週刊ゴング、週刊ファイトのうち、ゴングとファイトが休刊――ゴングは今月、月刊誌として復刊――となり、マニア層をターゲットとしたムック系のプロレス雑誌群(不定期刊行物)は創刊と休刊をくり返している。それでも、プロレス関連の書籍はコンスタントに出版され、各団体の映像作品(DVD)も次つぎにリリースされている。

 アメリカの関係者に「いま日本にはプロレス団体はいくつくらいあるのですか」と聞かれると、ぼくは「だいたい、100カンパニーくらいです」と答えることにしている。団体名またはプロダクション名があって、事務所(それがだれかの自宅だとしても)があって、電話番号を公表していて、公式ウェブサイトがあるカンパニーは――藤波辰爾のドラディション、長州力のリキ・プロダクション、天龍源一郎の天龍プロジェクトなど個人事務所までを数えると――全部で100社くらいある。そのうちの50団体くらいは年間を通じてフルタイムの興行活動をおこなっている。

 日本国内のプロレスラーの数は、専門誌の選手名鑑に掲載されている団体所属選手、フリーランサーを合わせて男女約500選手。名鑑に載らない弱小インディーズ系のレスラー、ローカル選手までを加えると、その数は800人前後になる。正確な数字をはじき出すのはひじょうにむずかしいが、全体の興行数は年間約3000公演くらいといわれ、毎週土、日には全国各地でそれぞれ15~20興行が開催されている。

 国土の面積だけを考えると、日本はアメリカのカリフォルニア州くらいのサイズだから、そのなかに「100団体くらいあります」というと、アメリカのプロレス関係者はジャパンのプロレス市場の大きさにやっぱりビックリする。でも、「プロレスはかつてのような人気はありません」とつけ加えると、彼らにはそのあたりの状況はあまりよく理解できないらしい。

 あれほど広いアメリカにメジャーリーグとカテゴライズできるプロレス団体はWWEしかない。現在でもインディペンデント団体は全米に250グループほどあって、それぞれが独自の活動をおこなっている。各団体がそれぞれ10人ずつの選手を抱えているとすると、全体的な数は2500人くらいになる計算だ。ところが、そういうレスラーたちのほとんどは「ぼくの(わたしの)将来の夢はWWEスーパースターになること」と考えているから、じっさいにはWWEスーパースターの“予備軍”が2500人くらいいるというのが現実だ。

 もちろん、インディー系団体のなかには「ジャパンへ行って、ジャパニーズ・スタイルのプロレスを勉強すること、ジャパンのリングでスターになることが夢」とそのドリームを語る若いレスラーたちもけっこうたくさんいる。新日本プロレスの現IWGPヘビー級王者AJ・スタイルズは――WWEではなくて――ジャパンのプロレスを選択した現代のアメリカ人レスラーの代表的な例ということになるのかもしれない。全日本プロレスの三冠ヘビー級王者ジョー・ドーリングも“国産”のアメリカ人レスラーである。

 かつてはスタン・ハンセン、ブルーザー・ブロディ、テリー・ゴーディ、スティーブ・ウィリアムス、ベイダー、スコット・ノートンら、古くはザ・デストロイヤー、アブドーラ・ザ・ブッチャー、タイガー・ジェット・シンらがアメリカやカナダのメジャー団体ではなく、日本のプロレス団体を選択し、現役生活のピークを日本のリングで過ごした。

 日本という国は、いまでもほんとうにプロレス先進国なのだろか。ジャパンは、これからもアメリカ人レスラーたちにとって“約束の地”“夢の国”でありつづけることができるだろうか――?

文責/斎藤文彦 イラスト/おはつ

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※このコラムは毎週更新します。次回は、9月9~10日頃に掲載予定!

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