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「真珠湾攻撃」を描いた映画をひも解く

 12月8日と言えば何の日か知っているだろうか。ジョン・レノンの命日?  いやいや、もっと昔、歴史の教科書を思い出してほしい。  そう、12月8日は、1941年の大日本帝国海軍によるハワイ・真珠湾に対する奇襲攻撃が行なわれた日なのだ。 「なーんだ。70年以上も前の話じゃん」と言いたくなる気持ちは分かるが、自分には何の関係もない過去の話と侮ってはいけない。  現代の状況ともしっかりリンクしているからだ。以下、これからご紹介する映画からその一端を示そう。 ◆日本人像がメチャクチャ! 観客から失笑の渦
「パール・ハーバー」('01)

「パール・ハーバー」('01)

 ’01年に公開された戦争超大作「パール・ハーバー」は、ここ十年程度の間に真珠湾攻撃を描いた映画の代表格だ。しかし、「アルマゲドン」や「トランスフォーマー」などの娯楽作で知られるマイケル・ベイ監督作品ということもあり、史実をネタにしたアクション&ラブロマンスといった味付けが強い。加えて、劇中の日本人像があまりに滅茶苦茶なので、日本の観客から失笑が漏れたといういわくつきの作品でもある。  とくに真珠湾攻撃の是非について東條英機首相ら閣僚が話し合う重要な会議が、すぐ近くで子どもが凧揚げしているような野外(!)で行なわれ、しかも、その会議のテーブルの周囲には墨で「尊皇」「勇戦」「皇国」などと大きく書かれた幟(のぼり)が立っている、というのはどう考えてもシュール過ぎる(まるで寺山修司の実験映画だ)。  要するに「東洋のわけのわからない人々」として描写しているわけで、とてもアメリカと戦争直前まで和平交渉を進めていた「近代人」には見えないのだ。そのため、空爆シーンはさながら宇宙人の襲来といった趣なのだ。  ルーズベルト大統領が事前に計画を知っていてわざと攻撃させた、とする陰謀説が未だに多いが、この映画を見ると、実際はただ日本を過小評価し「なめ切っていた」だけだったのではないかと思ってしまう。  ハワイのパールハーバー・ナショナル・モニュメントの軍事史家、ダニエル・マルティネス氏は、陰謀説を「伝説」と言って否定している。「日本軍がそんなことをできるわけがないという気分が漂っていた。われわれは日本は軍事的に劣っていると思っていたし、人種的にも日本を見下していた」(「ルーズベルト大統領は真珠湾攻撃を事前に知っていたのか?」’11年12月5日付AFPBB News)と後に語っている。  これが真実だとすれば、アメリカが今もなお自分達のルールに従わない者らを「野蛮」と呼ぶ神経が理解できるというものだ。そういう意味で非常に貴重な民俗資料である。 ◆日本側を公平に扱ったため、アメリカではコケた? 「戦争を避け得ない場合、アメリカは日本からの第一撃を望む」
「トラ・トラ・トラ」('70)

「トラ・トラ・トラ」('70)

 陸軍参謀総長ジョージ・C・マーシャルの奇妙な電報を二度も読み上げるシーンが印象的な「トラ・トラ・トラ!」(’70)は、「パール・ハーバー」とは異なり、「近代人」としての日本人が登場する日米合作の戦争映画の金字塔だ。  CGがない分、実機の重厚感や爆発の迫力は断然こちらが上とされる。  監督のリチャード・フライシャーがやたらリベラルだったか、当時の作り手が公平性に敏感だったかは不明だが、ハワイのアメリカ軍が奇襲攻撃で多大な犠牲者を出した背景要因について、日本政府の暗号を解読するも重要な情報を現場に伝えず、保身と責任逃れが横行していたワシントンの政府中枢部の体制を挙げている。  先の「日本からの第一撃を望む」がまさにそうだが、日本側に到底受け入れられないハル・ノート(事実上の最後通牒)を突き付けた上で、開戦を正当化できる「先行攻撃」がないと動けなかった裏事情も披露されている。ただ、大きな誤算は最初の標的をフィリピンと踏んでいたことだ。  映画では、山本五十六連合艦隊司令長官がハーバード帰りのインテリとして描かれ、日独伊三国軍事同盟に反対していたことエピソードを入れたりするなど、アメリカ映画の中では異例というぐらい日本側を公平に扱っている(だから本国ではヒットしなかった!)。 ◆ダーティ・ジャップ……極東軍事裁判は「だまし打ち」を否定  さて、真珠湾攻撃を悪名高いものにしている「だまし打ち」という表現だが、実はこれは意外にものちの極東軍事裁判で否定されている。  判決では、ハーグ条約が「通告を与えてから敵対行為を開始するまえの間にどれだけの時間の余裕を置かなければならないかを明確にしていない」と指摘。そして、思いがけない事故に備えていなかったため、大使館での作業の遅れで通告が遅れたと結論づけ、「つまり、だましたのではないと判定した」(半藤一利・保阪正康・井上亮「『東京裁判』を読む」日経ビジネス人文庫)。さらに条約の構造的欠陥にまで言及し、「真珠湾での事後通告はむしろ避けられないことだったとまでいっている」(同上)のだ。(しかし、この外交上のミスが「ダーティ・ジャップ」との認識を広める隙を与えた事実はまったく変わらないのだが……)  こういった視点を持つことで、歴史をより複眼的に見ることができるだろう。  作家の赤坂真理氏の最新作『愛と暴力の戦後とその後』(講談社新書)に、「お前ら真珠湾やったじゃないか」と言われたら仕方がないと話す母親とのやり取りが出て来るが、アメリカの原爆投下や東京大空襲を正当化する文脈で、最初に「だまし打ち」攻撃をやったほうが悪いという考え方が何の疑問もなく信じられている面もあるからだ。 ⇒【後編】「円谷英二作! ミニチュアを使った特撮がスゴい!」に続く https://nikkan-spa.jp/759881 文/真鍋 厚(鬼畜映画ライター)
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なぜ、それは〈テロ〉と呼ばれるのか?


パール・ハーバー 特別版

マイケル・ベイ監督が贈る、日本軍の真珠湾攻撃を背景に、米軍パイロットたちの恋と友情を描いた戦争ロマン

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