偽診断書で病欠を獲得! 中国の労働者の間で“仮病”が大流行
◆偽診断書業者が暗躍するほど仮病が蔓延中!原因は日本以上のサービス残業社会にあり?
中国の労働者の間で、最近ある“病”が流行している。職場で、その流行病が猛威を振るっているというのは広州市在住の日系工場勤務・戸田誠さん(仮名・43歳)だ。
「ある朝、部下3人から同時に体調不良で会社を休むと連絡を受けた。ウイルス性の風邪でも流行っているのかと思って心配したんですが……。翌日、風俗店で昼間から遊んでいて、一斉摘発で拘束されたという一報が入ったんです。もう、呆れ果てましたよ」
そう、流行っているのは、仮病なのだ。『法制晩報』(9月9日付)が米シンクタンクによる調査結果をもとに報じたところによると、仮病を使って会社を休んだ経験のある中国人は70%以上。この調査は英米仏をはじめ、オーストラリア、カナダ、インド、メキシコの8か国の労働者が対象だったが、中国がダントツの1位だった。
武漢市の運送業・武智義文さん(仮名・34歳)によると、仮病にはこんな症状まであるとか。
「ウチの中国人従業員が、『日本の原発事故以降、体がだるい。きっと放射能のせいだ』と言って、病欠を申請してきた。仕方なく、回復後に病院の診断書を持参することを条件に休ませました」
日本の原発事故の影響を、遥か中国の内陸部まで受けるなど考えにくいが、武智さんが病欠を与えざるを得なかったのには理由がある。『中新上海網』(7月9日付)によると、腰痛や睡眠障害を訴え、2か月間も病欠していた女性職員をクビにした企業が、逆にこの女性から訴えられ、企業側に50万円の賠償金支払い判決が出たからだ。
しかし……武智さんは続ける。
「3日休んだ後、彼が持ってきた診断書には確かに『原因不明の心身衰弱』と書かれてありました。ところが、発行元の病院に問い合わせたら、『診断した記録はない』とのこと。即クビにしましたよ」
病欠を獲得するために偽診断書が利用されるのは、この国では驚くほどの話ではない。『広州日報』(8月24日付)は、ネット上で偽診断書を販売する業者の実態を報じたが、ある業者は妊娠証明書や死亡証明書までメール1本で注文を受け付けていたという。さらに同紙が入手した業者の偽診断書には実在の病院の印が押されてあり、偽物と見破るのは困難だったという。偽診断書市場まで生み出すほどの社会現象となった仮病について、中国在住のフリーライター・吉井透氏はこう話す。
「経済成長で、中国人の残業時間は毎年増加傾向にあります。中国版ツイッターの『微博』上で1800人が参加したアンケートによれば、『残業は一日3時間以上』と答えた人は35%以上にのぼった。『サービス残業はしない』というイメージの中国人ですが、営業職は歩合報酬でノルマもあるため、サービス残業をする人が増えています。一方、’08年に施行された新労働法で年次有給休暇の保証を義務付けましたが、ホワイトカラーの消化率は50%程度。接待なども勤務時間として計算すると、ワーカホリックと呼ばれたバブル期の日本人以上の働きぶりです。仮病でも使わなければ、過労死しかねないという労働者も多い」
仮病によるズル休みの横行は、過熱するインフレで実質賃金も頭打ちとなった労働者たちによるサボタージュなのかもしれない。
◆女性患者殺到のイケメン医師
仮病が社会問題となりつつある中国で、多くの仮病患者が訪れるというのが浙江省温州市内にある診療所だ。ここには、ネット上で「イケメンすぎる医師」として話題になった陳和倫さんが働いており、彼目当ての女性が連日、診察に訪れているというのだ。もっとも、彼女たちの大半は仮病であるため、彼の施術で一番多いのは絆創膏の貼付だとか……。『微博』のアカウントには、4万人ものフォロワーがついてしまい、有名になったストレスで、夜も眠れない日々を過ごしているという。仮病の患者が殺到したせいで、医者が本当の病気になっては冗談にもならない!?
取材・文/奥窪優木
【中華人民毒報】
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SPA!獨家報導 vol.166仮病天国編1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
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