今の若者が「中年童貞」予備軍になる可能性
―[中年童貞]―
ノンフィクションライター中村淳彦氏の著書『ルポ 中年童貞』が話題だ。本書によると、30歳以上の未婚男性のうち4人に1人が女性(セックス)を知らないという衝撃的な数字まで出ている。知れば知るほど他人事とは思えないこのテーマについて、男女関係論専門のコラムニスト・勝部元気氏と、中村氏が対談する。
⇒【vol.1】「女性から見て“アウトな男”が増えてきている」https://nikkan-spa.jp/811949
中村:私が『ルポ 中年童貞』の取材で接してきた人たちは、モテなさすぎて精神病院に入ったり、性同一性障害になったりと、童貞のなかでもかなり極端な人たちではあるんです。でも、いまの日本にはだいたい200万人の童貞がいるという見立てもあって、これが事実なら、日本人未婚男性の4人に1人が童貞ということになる。この国の童貞率や生涯未婚率は、これからも上がり続ける可能性あるわけだけど、うまい解決策はないですかねぇ。
勝部:悩ましいところです。ただ、実を言うと、私自身が中年童貞予備軍だったんですよね。
中村:えっ? 信じられない(苦笑)。とはいえ、ちゃんと女性とお付き合いも、セックスもしてきたわけでしょ?
勝部:そうですね。ただ20代前半まで男女関係にはずっと受け身で、セックスをしたい欲求は人一倍強かったのですが、コミュニケーション能力がひどく欠如していたために、女性とうまく関係が築けなかったんですよ。私の場合はたまたま運が良く、積極的にアプローチしてくれる女性がいてくれたから、童貞を脱出できたようなもの。それが契機になって殻を破ることができて、自分から女性に対してコミュニケーションをとれるようになりました。そのときの経験がなかったら、いまごろ、中年童貞だったかもしれません。
中村:そう聞くと、中年童貞は、やはりコミュニケーション能力の問題なのかしれない。私より下の世代の人たちは、「ヤリたい!」という性欲よりも、「コミュニケーションで傷つきたくない」という気持ちのほうが勝っている印象です。
勝部:そうですね。劣等感をおぼえたくないというか、妙なプライドの高さが邪魔をしている部分があります。
中村:取材を通じて、AV女優やアイドルのファンをしている大人しい中年童貞もいれば、ネトウヨ界隈や介護業界あたりには、他者に対して極めて攻撃的になる中年童貞がいることも分かった。そして、どちらにも根本には勝部さんが指摘するようなプライドの高さがあって、それが障害になっているように感じます。
勝部:『中年童貞』のなかで、AV監督の二村ヒトシさんが仰っていましたが、同じ趣味を持つ男女の集まりやサークルに参加するのは、童貞から脱出する解決策としてかなり有効だと思いますね。
中村:そうですね。競争の場である婚活パーティーなんかに行くよりも、そっちのほうがはるかに生産的でしょう。
勝部:私は大学生のときに、当時流行っていたmixiでコミュニティを立ち上げて、オフ会やイベントを開催したりしましたけど、そのなかでもカップルは生まれていましたからね。
たとえば、ホワイトハンズ(「性にまつわる社会問題の解決を目指す」一般社団法人)という組織で代表を務めている坂爪慎吾さんも「団体に属して、そこに貢献しよう」と言っていましたし、なにかしらのコミュニティに所属して、中心メンバーとして活動していれば、異性との関わりが多少なりとも増えると思うんですよ。ちょっと乱暴な発想のように感じるかもしれませんが、私はそのパターンに乗れたのだと考えているので、個人的にはぜひオススメしたい方法です。
中村:でも、それってすごく当たり前の方法のようにも思いますよ。私たちの時代だって、大学や専門学校に入学して、サークルに入ったり、バイトをしたりするなかで出会った女のコと初体験を済ませる……なんてパターンが一般的でしたから。
ただ、中年童貞のなかには、ほんの少しの勇気も出せず、前に進めない人もいる。本にも書いたように、私は中年童貞を解消するための処方箋として「厳しいお父さんの(もしくはお父さん的な)存在」「マザコンからの脱出」「自立」という3つの要素を現時点で挙げていますが、率直なところ、それらの実現性は高いと思えない。
勝部:そうですね。難しいかもしれません。改善の兆しもないですし、ここまで規模が大きくなると、それこそ「ネット右翼」や「毒親」みたいな社会問題にすらなってくる。
中村:二村ヒトシさんも指摘していましたけど、すべての個体が遺伝子を次世代に遺せるわけではないのは生き物の摂理。だから、本当にキモくて、他人に迷惑かけるような人が恋愛も結婚もできないのは、仕方がないこと……とドライに見ることできるでしょう。
ただ今後、面倒な中年童貞が増えていくとしたら、社会全体がどんどん生きづらくなってしまう可能性もありますよ。介護が代表する労働集約型産業の末端では、まわりに害を及ぼしているし。これ以上、悪化したら産業自体が倒れかねない。
勝部:秋葉原通り魔事件(2008年発生。死亡7人、負傷10人もの犠牲者を出したが、犯人は童貞であったことをコンプレックスのひとつにしていた)みたいなこともありますからね。
中村:ええ。私はこれまでAV女優や風俗嬢といった、人生にどこか暗いものを抱えているような方を何人も取材してきましたが、地雷が多いというか極端に攻撃的な人に出会ったのは、中年童貞が初めてでした。
勝部:中年童貞は自分のプライドの高さや、自信の無さが「セックスできない」ことに繋がっていますけど、いま私が接している10代の子どもたちは、また違った性意識を持っているんですよ。
中村:10代の生の声を聞く機会があるのですか?
勝部:はい。高校で「性に対するリテラシー」をテーマにしたプログラムを提供するNPO法人に参加し、講演などを行っているんです。男子生徒には、女性としっかり向き合えるような人間になって欲しいですし、女性から恨まれている大人や気持ち悪がられている大人のようにはならないで欲しいと思って活動しています。
中村:10代の子どもたちって、そこまでカッチリとした価値観ができあがっていないから、勝部さんの話も素直に聞いてくれると思うんだけど、手応えは感じますか?
勝部:感じますね。先ほど中村さんが言ったように、現在、中年童貞になっている人には端的な解決策が見当たらないので、むしろ若年層を啓蒙するほうが、中年童貞の解決策・予防策としては有効だと思っています。
中村:本の感想をツイッターとかで見るのですが、「男子は早いうちに成功体験と失敗体験を重ねて、負けた後にどうすればいいのか、早いうちに教えなきゃいけない」なんて意見があったんです。確かに、性に対するリテラシーや異性とのコミュニケーションの要諦といった事柄を、若いうちから意識づけることが、問題解決に結びつきそうな気もしますね。
勝部:そうなんです。ただ、ひとつだけ気になることがあって、最近は性的なことを極端に避ける人の割合が多い傾向があるんですよね。
中村:セックスとか、エロいことが嫌いってことですか? 確かにエロ本もアダルトビデオも若い世代がまったく買わないから斜陽産業になってしまった。
勝部:そうですね。「なんとなく、嫌い……」みたいなって子、意外に多いですよ。粘膜とか、体液に触れるのが苦手とか。
中村:それ、古市憲寿さんみたいですね(社会学者の古市憲寿氏が、2014年10月にテレビ番組内で「唾液の交換があんまり好きじゃない」と発言して話題に)
勝部:古市さんは私とほぼ同世代なんですけど、この世代だと、まだ少数派の意見だと思います。ただ、10代だと古市さんみたいな子は多数派に近づいているかもしれませんね。
中村:う~ん。そういうの、かなり異常な状況だと思うんだけどなぁ……。
⇒【vol.3】「『中年童貞問題』は日本の国力を低下させる一因になる!?」に続く https://nikkan-spa.jp/811988
【中村淳彦氏】
ノンフィクションライター。高齢者デイサービスの運営にも携わったこともあり、中年童貞を多く目の当たりにした。代表作は『名前のない女たち』。ほか、著書に『日本の風俗嬢』、『職業としてのAV女優』など多数
【勝部元気】
コラムニスト。ジェンダー論、現代社会論、コミュニケーション論を切り口とした男女関係論が専門。ブログ『勝部元気のラブフェミ論』(http://ameblo.jp/ktb-genki/)では主に女性向けのさまざまな記事を配信
構成/漆原直行・紐野義貴 撮影/山田耕司
『ルポ 中年童貞』 童貞というコンプレックスは彼らの社会的な自立をも阻害する |
『恋愛氷河期』 著者は、ナンパ禁止論や反・不倫論で話題を呼んでいるコラムニスト。男性から、かつ若手からの立場で、女性に厳しい社会に真っ向からダメ出しをする。 |
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