「進撃の巨人」 異例のコラボ展開を実現させた作者の寛容性
巨人が人を捕食するという圧巻の描写で連載開始当時から話題騒然。アニメ化・実写映画化・スピンオフ・コラボ商品が次々と誕生し、メディアミックスの幅広さでも他作品を圧倒する。世間を喰らい尽くす勢いの根底にあるものとは!?
◆前人未到の“展開力”をみせる『進撃』ワールド
映画でも使用した特製フィギュアをCG合成したオリジナルデザインで週刊SPA!8月4日号の表紙を飾った『進撃の巨人』(以下、『進撃』)。累計5000万部突破をはじめ、韓国・香港・欧米といった海外でも人気爆発、『進撃』がもたらした経済効果は計り知れない。そして、『進撃』が従来のコンテンツと大きく異なるのはスピンオフ作品やコラボ商品の多さ。未曾有のメディアミックスを実現させた要因は、性別・年齢を超えた幅広い層への“訴求力”があげられる。現代文化に詳しい濱野智史氏は次のように説明する。
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「昔なら、スポンサーから『こんな気持ち悪い作品は……』という話になってもおかしくない。にもかかわらず、受け入れられている。ファンにしても、支持している作品やキャラクターが活躍の場を得られてよかった、ぐらいに思っているんです」
これには、“ネット文化との親和性”が関係しているようだ。
「ニコニコ動画やpixvといったネットの影響が大きいです。というのも、昔は二次創作といえば、コミケのような即売会でエロ同人を売る、というのが主流でした。でも今はネット上で拾った画像を使って簡単に二次創作物を作れるし、皆に見てもらえる。初音ミクがその典型で、数多くの“誰か”が作った曲で人気が拡大していきました。2000年代後半以降、キャラクターや作品がメディアをまたぐことに抵抗がなくなり、『進撃』の展開はまさしくそこにハマったと思いますね」
◆読者が望むものを的確に提供する柔軟性
マンガコンテンツに関連したイベント・施設などを企画する山内康裕氏も、コラボ展開のうまさを評価する。
「まず、著作権者である作者サイドが寛容ですよね。作者の諫山さんも編集の川窪さんもネット世代の若者なので、世の中の声や流れに対して柔軟に対応できたのだと思います。読者が求めるものを的確に提供しているといえますね」
そこで、コンテンツプロデュースを手がける立場から、印象に残ったコラボ例をあげてもらった。
「『リアル脱出ゲーム』はよくできていました。球場を使って壁に囲まれた状況を再現し、立体モニターに等身大の巨人を出現させる。もうその段階で勝ち。今の読者が求めていることは『作品の中に入ること』なんです。ファンの間では有名な“聖地巡礼”はその典型です」
つまり、作品世界を体感できるコラボほど、成功するという。
「あと『VOCE』の付録についた巨人のフェイスパックも面白いと思います。あれは『進撃』が受け入れられる幅のある作品だということを的確につかんだ展開です」
いまや女性誌にも取り上げられるほどの人気コンテンツとなっている『進撃の巨人』。さらには子供が日々使うような学習帳(※現在は在庫切れのため、販売終了)、警視庁の注意喚起ポスターへの起用などの展開をみせている。これに関して山内氏は『進撃』の“誰もが楽しめる作品性”を評価する。
「伏線・考察好きを楽しませる謎や女性人気のあるリヴァイのようなキャラクターもいる。また、子供にも楽しめるストレートな王道少年マンガの側面もありますし、巨人という設定はダークファンタジーや『ゴジラ』が好きな人たちも楽しませられる。非常に幅広い層にウケる要素がある作品なんです。それをわかっていて、『進撃』を読んだ人が望む世界を、スピンオフや展覧会、ファッションといった形で的確に出している。それがブームに繋がっています」
ただ、作品がいかにすごくても成功するにはスタッフの“愛”が必要だと山内氏は言う。
「読者が賢くなっていますし、お金儲けのために作ったメディアミックスやスピンオフでは騙せません。アニメは決して原作どおりではありませんが、細かく作りこまれていて、『進撃』が好きなスタッフが作っていると伝わります。美しい作画や作品にあった優れた声優の起用で原作を敬遠していた女性を多く獲得し、さらなるブレイクを実現したのです」
Linked Horizonが歌うアニメ主題歌もファン心をくすぐり、初動約13万枚というヒットに。そして、紅白歌合戦出場という結果にも繋がった。
「一般層への認知拡大のタイミングはあそこでしょうね。あのとき、多くの人がマンガやアニメを見始めてファンになっていきました」
まもなく封切られる実写映画『進撃の巨人』でさらなる盛り上がりが予想されるこのブームから、ますます目が離せない。
【濱野智史氏】
情報環境研究者。情報社会論が専門。著書に『アーキテクチャの生態系』など多数。アイドルプロデューサーの一面も
【山内康裕氏】
マンガナイト代表。マンガに関するイベントを開催するほか、施設、商品などのコンテンツプロデュースなども行う
取材・文/清水耕司 (C)2015 映画「進撃の巨人」製作委員会 (C)諫山創/講談社 (C)諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会
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