中日・谷繁監督の「プロ野球をナメていた時期を経て辿り着いた究極の目標」
―[俺の職場に天才はいらない]―
― 連載<俺の職場に天才はいらない!>谷繁元信監督兼選手の管理職的独り言 ―
◆他人と自分を比べていてもなにひとつ上達はしない
日本シリーズが終わった。ホークスがスワローズを4勝1敗で下して日本一になった。久しく遠ざかってしまったプレーオフ、日本シリーズは1点、1球が重たい。この季節はテレビで観るのではなく自分たちが野球をしていたい。改めて悔しさを感じたよ。
秋といえばドラフト。専任監督となって初めての抽選では1巡目指名で当たりくじを掴むことはできなかったけど、2回目の指名では、1位で左腕の小笠原君(東海大相模高)を当てることができた。ほかにも即戦力の社会人を数多く獲得できたし、満足のいくドラフト会議だった。自分を含めベテラン勢が数多く引退した今季。未来を担う新人が入団すれば、いよいよドラゴンズは生まれ変わる。
さて、新人選手たちがチームに合流するのは来年春のキャンプだが、現役選手たちは目下、秋季キャンプの真っ最中だ。本体はナゴヤ球場で、若手投手陣は岐阜でそれぞれの課題を克服するために練習漬けの毎日を送っている。今日はオレ自身がレギュラーを掴む前、若手だった頃を振り返って、選手に伝えたいある話をしようと思う。
◆あいつはオレより下……その気持ちが成長を阻む
昔、ドラフト1位でプロ野球に入ったオレは、最初の頃、プロ野球を甘く見ていた。オレの心の中には「そのうちレギュラーを獲れるだろう」という甘い気持ちがあったんだ。ドラフト1位で入って、1年目から一軍の試合にも出してもらえて、コーチから言われた練習をこなしていけば、そのうちレギュラーを獲れると思っていたんだ。今思えば、やっぱり若さゆえに“ナメていた”と思う。
現役生活を振り返って、今、思う。あの“ナメた気持ち”がレギュラーを獲るのを遅らせたのだと。オレは自分の甘さに気づくのに4年もかかった。プロ野球は毎年誰かがチームを去る。1つ上、1つ下の先輩たちが次々と解雇されるのを目の当たりにして、初めてまずいと思ったんだ。
プロ野球をナメていた気持ちはその後、危機感となって自分に跳ね返ってきた。この時期は毎年、ドラフト会議で指名された同じポジションの新人が入ってくる。レギュラーに定着するまでのオレは、常にドラフト会議で指名されたライバルのことが気になって仕方がなかった時期があった。新入団選手のプレーを自分と比較して、こいつには負けないとか、自分が勝っているなと。要するに誰かと比較して、安心したかったんだと思うんだ。
グラウンドに立てば野球選手はみな、自分ひとりの力で結果を出さなければいけない。なのに若い頃のオレは、周囲との比較で満足してしまい、自分のレベルを上げようとしなかった。球団中の競争だけで満足してたんだよね。これじゃあ本当のレベルアップなんて到底できない。
最終的にオレはキャッチャーとして「試合に負けないこと」という生涯の目標に辿り着いた。プロ野球をナメていた時期、周囲との比較で満足していた時期を経て辿り着いた究極の目標だ。回り道をした分、時間はかかってしまった。そして27年も現役でプレーしても、最後まで野球を極めることはできなかった。
野球とはそれほど奥が深い。男がすべてを賭けてぶつかるだけの面白さが詰まっている。だからこの秋は、選手全員の意識が少しでも変わっていくことを願っている。やっぱり監督している以上、全部の試合で勝ちたいからね。
※「俺の職場に天才はいらない!」は週刊SPA!にて好評連載中
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