海外では“サイレントキラー”と紹介。「お餅」で亡くなる高齢者の多い日本
年が明け、気持ちを新たにスタートしたい1月。しかし、1月は年間を通じて窒息による死亡事故が最も多い月で、その大半は高齢者によるものだ。新年を迎え、おめでたい気分で口にする「お餅」が主な原因とされている。
東京消防庁のまとめでは、2007〜11年の5年間に604人が餅や団子などによる窒息で救急搬送され、うち36%が1月に集中している。搬送者の9割は65歳以上の高齢者で、その約半数が生命の危険のある「重症」以上の診断を受けた。
「口腔周辺の機能が落ちている高齢者にとって、お餅を食べることは“自殺”に近い」と神奈川県内の病院に勤務する医療関係者は心配しこう続ける。
「年始にお餅を食べるときに注意していただきたいのは高齢者の方々です。高齢者は加齢により嚥下機能、唾液分泌量の低下、部分入れ歯を使用されているなどの理由から、毎年噛み切れなかったお餅による窒息や、お餅にくっついた入れ歯を誤飲するといった事故が相次いで発生しています。
もしご家庭でお餅を食べる際は、細かく食べやすいサイズにしてから食べましょう。おしゃべりや口の体操をして唾液分泌を促してから食べたり、スープやお茶で口を潤してから食べることをお勧めします。
餅を喉につまらせてしまった場合は、掃除機で吸引を行うという応急処置が有効ですが、緊急時ですのでもしもの際は迷わず救急車を呼んでください」
内閣府の食品安全委員会が発表した「食品による窒息事故についてのリスク評価」によると、お餅は最も危険な食品のひとつ。お餅はこんにゃくゼリーの30倍、飴の5倍ほど窒息事故の頻度が高い。あれだけ窒息事故で騒がれていた「こんにゃくゼリー」よりもリスクが高いというのは意外かもしれない。
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およそ5年前ではあるが、2011年1月4日のウォール・ストリート・ジャーナルによる報道では、日本の伝統文化のひとつであるお餅について、“Mochi: New Year’s Silent Killer”という見出しで紹介されている。直訳すれば“新年の静かなる殺し屋”で、海外の読者からは驚きや戸惑いの反響が多数寄せられていた。
お餅が危険だからといってむやみに規制されないのは、やはり日本の古きよき文化のひとつと考えられているからだろう。地方のお祭りで事故が起きても何となく受け入れられていることも、こうした背景があるからなのかもしれない。
もちろん、何よりの予防となるのは、お餅の危険性を正しく理解することだ。東京消防庁は、「餅は小さく切ってよくかんで食べる。のどに詰まらせた場合は、意識があるか確かめたうえで、反応があればあごを支えてうつむかせ、背中を強くたたいてはき出させる」などの対応を取るよう呼びかけている。
消費者庁のホームページでは、救急車が到着するまでの応急手当てとして、年齢・性別を問わず実施できる「背部叩打(こうだ)法」が紹介されている。食べ物を詰まらせた人が立っている場合は背後から、倒れている場合は横向きにして、手のひらの付け根で、肩甲骨の間を強く素早くたたく。回数にとらわれず、詰まったものが取れるか、反応がなくなるまで試みるというものだ。
新年早々、身内の不幸で悲しむことのないよう、お餅を食べる際には十分に注意し、素敵な正月を過ごしていただきたい。 <取材・文/北村篤裕>
2016年も例外ではない。東京消防庁によると、元日、都内で餅をのどに詰まらせて病院に運ばれた人は、午後3時現在で、75歳から92歳までのお年寄り8人にのぼるという。1日午前10時過ぎには、杉並区の83歳の女性が、自宅で雑煮の餅を食べた際にのどに詰まらせ、心肺停止の状態で病院に運ばれ亡くなっている。
食べ物による窒息事故の9割は高齢者
海外で“新年のサイレントキラー”と紹介された日本のお餅
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