“常識を超えたシェアハウス”に密着【後編】
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そして、シェアハウスといえば住人同士の交流。入居者で、インターネット上で化粧品ブランド「肌王子」を展開する吉本真人さん(35歳)は話す。
「僕の仕事はある意味どこにいてもできるので、どうせなら人の多い場所に来ようと思い、地元の長崎から上京してきました。長崎はもちろん、関西などの地方ではこうしたスタイルの施設がないんです。あと、自分はわりと引きこもり気質なのですが、ここならわざわざ出かけなくても人と話せるから、自分の性格に合っていると思います」
ラウンジで行われる交流は、住人同士の憩いの場。
「プライベートがないほど仕事が多忙なので、ラウンジで話すことが唯一の楽しみ」(Tさん・28歳)という人も。ラウンジでは毎週末、音楽ライブやワークショップなど、何かしらのイベントが行われ入居者同士の親睦を深める機会となっている。だが、それも強制ではない。同社広報担当者によると、全施設に共通する「3割の法則」というものがあるらしい。
「不思議なことに、どの施設でもイベントやラウンジに顔を出すのは住人の3割だけなんです」(同)
残りの7割は、粛々と施設を利用するのみ。一人になりたければ部屋へ、人恋しくなればラウンジへ。風呂やキッチンが共同である点を除けば、一人暮らしとシェアハウスの良いとこ取りであると言えるだろう。
交流があるとなると、もちろん恋愛事情も気になる。実際に住人同士の男女交際は珍しくなく、蒲田ではなんと30組が交際しており、ほかに8組が結婚。基本的に結婚後は退去するが、住み続けるカップルもいる。新百合ケ丘でも最近、一組の結婚が決まった。同社広報担当者は語る。
「もちろん入居者は交際や婚活を目的に来ているわけではないのですが、確かにスムーズに行く面はあると思います。キッチンで一緒に料理をしたり、部屋に遊びに行ったりすることで、互いの飾らない生活ぶりを知ることができるからでしょう」(同)
別れてしまった場合はそのままか、同社の他の施設に片方が転居することもあるという。澁谷朋広さん(会社員・29歳)も「結婚はまだしも、彼女ができたという程度では引っ越すつもりはない」という。部屋に恋人や友人を連れくるのは可能だという(月2回まで。それ以上は一律一万円プラス家賃)。
ただ、「シェアハウス住まいは若いうちだけ」という共通認識があることも否めない。シェアハウス事情に詳しいライターは次のように話す。
「今さら他人と暮らせるような協調性もなく、中年に適した条件のシェアハウスはほとんどない。孤独死や急病、事故などへの不安感から精神のバランスを崩し、隣人とトラブルを起こすなど“モンスター化”する独居中年は多いのです」(同)
その点、オークハウスでは昨今、30代~50代の独身居住者も増えてきている。
都内の某レジデンスに2年間居住していた秋山さん(仮名・税理士・39歳)は「特にデメリットは感じませんでしたね。独身のうちは、ここで十分だと思います。他人と暮らすのは、ここなら個室もあるし苦にならなかったですね。老人ホームに入る練習だと思えば良いですから(笑)」と話す。
現在入居中の八木さん(仮名・会社員・48歳)は「若い人と話すのは楽しいし、抵抗はあまり感じないです。仕事から帰ってくると、ラウンジに必ず誰かしらいるので、話相手に困らない点が気に入っています」と話す。
そもそも、シェアハウスに住むことで人生計画に狂いは生じないのか?
「一生住むつもりはないけど、独身のうちはここで十分だと思います。結婚願望はありますが、結婚したら家財道具を独身用から二人用のものに買い替えなければならないので、出費が重なる。それならば、当分はここにいたほうが経済的だと思います」(原田幸二さん・会社員・42歳)
新百合ヶ丘に入居中の池辺幸子さん(フリーTVプロデューサー・38歳)も「自分の年齢は気にならない」と話す。
「私も、歳をとることで頑固になるのは避けたいので、ここで若い子の相談に乗ったり一緒に旅行したりすることで新しい価値観を得られるのはありがたいです。逆に浮き足立ってしまって、婚活には支障をきたすかもしれないですね(笑)」と話す。池辺さんは所内のライブでも、AKBの衣装を着てダンスを披露するなど、20代の入居者に負けず劣らず楽しんでいる。
司会でライブを盛り上げた加藤さん(仮名・28歳・会社員)は「まるで学校や寮の文化のようですが、それを『第二の青春』のように楽しむ年上の方も多いんですよ」と話す。
同社の山中武志社長は、次のように話す。
「社会の多様化とともに、居住形態も変化してきています。独身や既婚者はもちろん、シングルマザー、受験生、就活中の人など立場や年齢を問わず幅広く活用してもらいたい。過去にはDV被害者を受け入れてシェルターのようなこともしていました。今後も様々な階層に合った住居を提供していきたい」
特に自宅サロンなどを生業とする人には、一室を店舗として貸し出すことも検討しているそうだ。今後も、オークハウスをはじめとするシェアハウス業界の変遷に注目していきたい。
取材・文/アンヨナ 撮影/石川真魚
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