小説家兼ベンチャー企業役員・上田岳弘がたくらむ「価値基準を超えた小説」とは
純文学にSF的なモチーフを融合させたスケールの大きい作風で多くのファンを魅了する作家・上田岳弘。’15年には『火花』を抑えて見事三島由紀夫賞(『私の恋人』)を受賞、カズオ・イシグロを見いだしたイギリスの文芸誌『GRANTA』若手ベスト企画ではデビューから最速で選出される一方、実はベンチャー企業の役員でもある。そんな純文学界の若手旗手にして異端児の彼が世に送り出した新しい小説プロジェクトが『キュー』。上田自らの発案で始まった、老舗文芸誌『新潮』とヤフーによる共同プロジェクトにどんな理想を抱いているのか聞いてみた。
――上田さんの連載小説『キュー』は文芸誌上に掲載されているだけでなく、週2回の更新ペースでスマホで無料配信されている点が大きな特徴です。まずはこの企画を思いついた経緯についてお聞かせください。
上田:以前、古井由吉さんに「今後、日本の文学はどうなっていくんでしょうか?」という、めちゃくちゃ大きな質問をぶつけたことがあるんです。今思えば、ずいぶん酔っぱらっていたなと恥ずかしくもあるのですが……。そのときに古井さんから「海外では新興企業が芸術を支援することが普通に行われている」という話を聞いて、「これだ!」と思ったんです。
――そこからヤフーとの共同プロジェクトに結びついたわけですか。
上田:ヤフーのスタッフさんとはもともと知り合いで、いわゆるページビューやクリック率といった、数字で判断できる価値基準を超えた新しい「何か」ができないかずっと話し合っていたところだったんですよ。古井さんのお話を聞いて、その何かに「小説」が当てはまるんじゃないかって思い当たったんです。
――つまり今回の『キュー』プロジェクトは、IT業界と純文学、双方にとってプラスになる試みだと。とはいえ、作家自ら座組みを作るって、なかなか珍しいことですよね。
上田:そうですね(笑)。でも、僕は会社の業務でもアライアンスを担当していて、複数の会社の強みを組み合わせれば面白いんじゃないかっていう提案をしょっちゅうするんですよ。今回のこともそれと同じ。こういうことは、立場や業種にとらわれず、得意な人が率先して動いて文学のためになればそれでいい
立場にとらわれず得意な人が動けばいい
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