タバコを吸ったら45分間、エレベータの乗車禁止…奈良県生駒市の受動喫煙対策は“差別”ではないのか?
今年4月1日から、奈良県生駒市が「喫煙後45分間はエレベーターの利用を禁止する」という受動喫煙防止対策を始めた。同市によれば、「喫煙後も45分間は喫煙者の体内から有毒物質が出続ける」という調査結果に基づいた判断だという。
ちなみにTVOCとは、揮発性有機化合物の中でもホルムアルデヒドなど国が指針値を定める物質以外の総称であり、TVOC=有毒とは限らない。大和教授の調査結果を見ても、喫煙前の呼気にも200μg/㎥程度は含まれており、それが喫煙後は300μg/㎥程度になったからといって、受動喫煙の有毒性を示すエビデンスとして信用するには少々無理がある。
これでは「風邪を引いた人は、呼気中のウィルス濃度が高まっているのでエレベーターに乗らないでください」としたほうが、よっぽど説得力がある。「根拠は特にないが感情的に嫌いだから排除しましょう」という風潮。これは一般的に“区別”ではなく“差別”と呼ばれる。
こうした喫煙者差別は、生駒市から奈良県にも波及しているようだが、自治体だけでなく、非喫煙者に有給休暇を支給する「スモ休」、禁煙継続で手当が出る「禁煙手当」、通勤時の禁煙推奨など、企業間にも広がっており、先進的な福利厚生制度として称賛する向きもある。しかし裏を返せば、確たるエビデンスもない以上、安易に感情論に便乗した人気取りの施策でしかない。
多様性が現代のキーワードのひとつであるならば、喫煙者と非喫煙者の共存はモデルケースとなり得るはず。喫煙者のマナー向上、分煙化などの地道な歩み寄りを超越した“行き過ぎた受動喫煙対策”は、過激であればあるほど耳目を引くことになるが、社会としては冷静に受け止める必要があるだろう。〈取材・文/日刊SPA!取材班〉
“嫌煙”という言葉が一般化し、何かと喫煙者の肩身が狭い昨今ではあるが、中には「ただ叩きたいだけ」という炎上ネタにも似た根拠不明なヘイトが蔓延している。今回の一件でも、「ちょっとやり過ぎでは」という意見がある一方で、「よくやった!」「喫煙者は毒!」と嫌煙派は意気揚々。両者のテンションの差は広がるばかりだ。
さて、では今回の件で根拠とされている「45分間は有毒物質が出続ける」という調査だが、これが極めて曖昧だ。
たしかに’07年度の厚生労働省の研究報告書には、喫煙後に呼気中のTVOC(Total Volatile Organic Compound:総揮発性有機化合物)の濃度が高まるという調査結果が掲載されている。しかし、検証されているのは喫煙後10分程度まで。
一方、この調査結果を報告した産業医科大学の大和浩教授のHPに掲載されたデータでは45分後まで捕捉されているが、上記のデータとは数値が異なる。仮に45分後までのデータを根拠とするならば、今度は国が定める「400μg/㎥」という目標値をそもそも超えていないという問題が残る。
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