モンスター・井上尚弥、神童・那須川天心、中京の怪物・田中恒成の拳を守るお値段は?
再来している格闘技ブームを牽引するのは、モンスター・井上尚弥、神童・那須川天心、中京の怪物・田中恒成など無敗の王者なのは間違いない。KOを量産する彼らは、破壊力が高すぎる故に、商売道具の拳を傷めることが多いのも事実だった。
そんな天才3人が頼る男がいる。バンデージ巻きのスペシャリストである永末“ニック”貴之だ。バンデージとは、拳や指を保護するために使う伸縮性のある包帯のこと。永末氏が彼らを担当するようになってから、3人の拳の怪我はなくなった。そんな日本で唯一、バンデージ巻きで報酬を得ている永末氏に話を聞いた。
――まず、バンデージ巻きが仕事になった経緯を教えてください。
永末 やはり世界的なカットマンであるジェイコブ・“スティッチ”デュランの影響は大きいでしょうね。カットマンとは、目付近を切った後に、素早く止血するスペシャリスト。しっかり止血できることは試合の命運を左右するため、米国を中心にしたビッグプロモーションがある国では、職業が成立しています。スティッチも名だたるボクシングの世界王者や、世界一のMMAプロモーション「UFC」でも担当している世界有数のスペシャリストです。
――日本では井岡一翔選手のカットマンに付いている方ですね。
永末 そうです。彼はカットマンとして一流ですが、バンデージ巻きも凄い。最初に出会ったのは僕がまだ20代前半の頃、総合格闘技イベント「PRIDE」のこと。僕が出場選手のグローブチェックを担当していて、無差別級王者のジョシュ・バーネットのセコンドがスティッチでした。巻くところをチェックしていたら……、手さばきの華麗さ、完成した拳の美しさ、フィット感もすべてにおいて完璧。すぐに「PRIDE」のレフェリーミーティングにもスティッチを呼び講習会をしてもらいましたが、当時の日本のレベルの低さを実感させられましたね。
――当時の日本の現状は?
永末 バンデージは指導者が巻くのが普通でした。でも、拳の構造も理解してなく、包帯やテーピングの知識もなく、“先輩に巻かれていたまま”。だから強打者ほど拳を痛めやすいという傾向にあったと思います。この伝統はまだまだ日本には残っていて、バンデージに関しては日本は後進国なのは間違いないです。
特に総合格闘技団体の中には「バンテージは拳の骨の形がわかるように巻かなければならない」という規程もあり、こんな薄い状態で拳より硬い頭を叩けば、当然傷めますよね(苦笑)。もっとバンデージの重要性を広めなくてはいけません。他の競技のトップアスリートは栄養士、調理師、メンタルトレーナー、フィジカルトレーナーと各分野のスペシャリストによる分業制が大半なんだから、バンテージもスペシャリストがいてもいい、と思ったのが修行の発端です。
――修行はスティッチ氏に師事を?
永末 いえ、ほぼ独学です。一度、スティッチ本人に「どの包帯使っているんだ?」と訊ねたら、「20年以上かけて探したものを、なぜお前に5分で教えなきゃいけないんだ」と怒られましたね(苦笑)。彼はバンデージを巻くことでお金を得ているのだから、当たり前だよな、と納得しましたね。
それからは世界中から包帯を集めて、巻く練習の日々です。推定300万円は軽く包帯だけにかけていますね。選手一人一人、拳の形が違うから何度も“練習”させてもらい、徐々に答えがわかってくる。拳の形状、パンチを打つ時の手首の返しや重心をみて、一人一人に適した巻き方をしていくようになりました。
そんな永末氏がバンデージを巻く三階級王者・田中恒成選手のインタビューが、週刊SPA!7月9日号(7月2日売り)の巻末インタビュー「エッジな人々」に掲載される。無敗の王者ながら自身を“無名”と語る、孤高のチャンピオンの本音が明らかにされる!
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ