ナイキ「厚底シューズ」論争で再注目、『陸王』の薄底セオリーは間違い?
箱根駅伝やマラソンの国際大会などで選手が着用し、新記録を連発したことで話題となっているナイキの厚底シューズ「ヴェイパーフライ」シリーズ。2020年1月15日、英国の複数メディアが、世界陸上連盟によって設けられる新たな規制により、これらのシューズが使用禁止になる可能性を報じた。
『陸王』は、『半沢直樹』や『下町ロケット』などのドラマ化でも好評を博した池井戸潤原作のドラマである。経営危機に瀕している老舗の足袋製造業者「こはぜ屋」社長・宮沢(役所広司)が、アメリカに本社を置く大手ランニングシューズメーカー・アトランティスと対峙し、競い合いながらランニングシューズの開発に奮闘する姿を描いた作品だ。
池井戸原作の醍醐味と呼べる勧善懲悪の痛快さ、テンポのいい展開、そして様々な視点からの人間ドラマが存分に描かれており、マラソンを題材としながらも、スポーツに疎い一般視聴者たちをも虜にした。そして最終回、宮沢たちの努力と思いが結実する感動のラストは、なんと視聴率20.5%を記録。今もなお記憶に残る人気ドラマである。
この『陸王』で描かれているのは、「足袋のように薄く、軽さとフィット感のあるはだし感覚のシューズ」の開発だ。
登場人物たちは一丸となり、「ソールが厚いシューズはケガをしやすく日本人の走法的に無理がある」というセオリーのもと、安全で人間本来の走りの真価が発揮される、より薄く耐久性のあるソールを追求していくのがストーリーの軸になっている。
――つまり、厚底主流の現在とは、逆の訴えがドラマ内でされていたのである。
マラソンなど長距離陸上界に詳しい、あるテレビ関係者は語る。
「原作小説『陸王』が発表されたのは2013年7月ですよね。その当時はソールが薄いシューズや裸足感覚で走ることは最先端のもの。その当時でしたら、ドラマで描かれている理論や薄底ランニングシューズ原理主義の主張は納得がいくものでした。
しかし、2017年7月にナイキの厚底シューズの初代ともいえる『ズーム ヴェイパーフライ 4%』が一般発売され、多くの記録を生み出しました。それにより、時代の流れは厚底となったのです」
2017年7月と言うと、10月の『陸王』放映開始から3ヶ月前のこと。ただ、それより前の2016年のリオ五輪で、ナイキの厚底シューズの試作品を着用した長距離の選手がメダルを数多く獲得しており、陸上界では大きな話題になっていた。
実際、当時多くの陸上関係者や陸上ファンからはドラマの内容について「時代遅れ」「リアルではない」などと疑問の声が上がっていたという。関係者はさらに続ける。
「『陸王』はドラマ放映開始の10ヶ月前に行われた2017年正月の『ニューイヤー駅伝2017』(第61回全日本実業団駅伝)で、早くも撮影が行われていました。したがって、少なくとも2016年半ばにはドラマ放映が決まっていたはずです。
池井戸先生の原作の内容を覆すわけにはいかないですから、ドラマ関係者は、時代が厚底に移行している流れを横目で見ながら、一般の耳に届くまでの大きな話題にならないよう願っていたかもしれませんね」
この問題は2020年の東京五輪が迫った影響からか、陸上関係者だけでなく連日各局がワイドショーで特集するなど、お茶の間からも多くの注目を集め騒動となっている。
そこで思い出されるのが、2017年10-12月にTBS系で放映されたドラマ『陸王』だ。ドラマの題材となったランニングシューズの技術開発競争が今注目されていることから、一部ではこの騒動を「リアル陸王」と評す声もある。
しかし、ふと実際の『陸王』の内容を思い返してみると疑問を感じるという意見も多くあるようだ。
薄底が良いとする『陸王』は、現実と逆
陸上関係者の間では当時から異論も
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映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦
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