間もなく入学・入園シーズン。学校や保育園に通い出すと、自分の子どもの挙動が、ほかの児童と比べて「ちょっと違うかも?」と違和感を覚える親もいる。
ライターとして働きながら、2人の子供を育てるシングルマザーの
吉田可奈さんもその一人だ。2人目の子「ぽんちゃん」が発達障害であると診断を受けたのは、5歳になったときだった(のちに重度の知的障害と発覚)。
おしゃべりができないハンデを持ちながら、誰からも愛されるぽんちゃんと、吉田さんの育児の軌跡を描いた
『うちの子へん?発達障害・知的障害の子と生きる』は、障害のある子を育てる母親の悩みや不安を解決するヒントが詰まった一冊だ。
小中学生30人のクラスに2人は発達障害の可能性あり
2012年の文部科学省の調査によると、全国の公立小・中学校(通常学級)に在籍する生徒のうち、6.5%は発達障害の可能性があるとされる。つまり、単純に考えれば30人のクラスには約2名いることになる。この数字からも、子どもの発達障害が決して珍しいものではないことがわかる。
発達障害の専門医である宮尾益知氏(どんぐり発達クリニック・院長)によると、「発達障害のある子は社会生活に困難が生じる半面、豊かな才能を持つ貴重な存在でもある」という。
「発達障害とは、見たことや聞いたことの理解・記憶、ものごとを最後までやりとげる、過去の経験に照らして計画を立てるといった、脳が果たす機能に偏りがあることを指します。このため、発達障害の子どもは人間関係でトラブルを起こしやすかったり、学習面の遅れが目立ったりするなど、日常生活がスムーズにいきにくい特徴があります」
こうした子たちの中には幼稚園児でありながら英語の論文が読めるなど、IQが非常に高い子もおり、彼らは“ギフテッド”(与えられた才能、資質を持つという意味)とも呼ばれている。
「上手に育て、よいところを引き出せば、世の中の大きな財産となる可能性を秘めているのです。彼らが生きづらさを抱えないよう、ストレスにならない程度に社会適応させつつ、その才能を伸ばしてあげるのが治療のひとつの目標になります」
また、発達障害は大きく分けて3つのタイプに分類でき、複数のタイプを併発している場合もあるそうだ。それぞれの特徴と主な治療法はどのようなものなのだろうか。
①ADHD(注意欠如・多動性障害)
「不注意が目立つ“注意欠如”、衝動性・多動性が目立つ“多動性障害”という2つのタイプに大別できますが、いずれも落ち着きのなさが特徴です。学校の授業や勉強に集中できない半面、自分が興味や関心を持ったことには驚くほど没入できます。アインシュタインやエジソンにもADHDの特徴があったとされています。
主な治療法は行動療法に基づいた日常生活の指導や薬物療法など。そのほか作業療法士による訓練、言語聴覚士によるコミュニケーション訓練や学習支援などがあります」
<ADHDチェックリスト>
□ 長く座っていられない、手足をそわそわ動かす
□ 約束事をよく忘れる
□ 何かに駆り立てられたように過度に活動的になることが多い
□ 工作などに取り組んでもすぐ飽きてしまう
□ 外からの刺激に対して、無条件に反射的に反応する
□ 刺激に反応して、衝動的に走ったり机に上ったりする
□ 簡単なミスをすることが多い
②ASD (自閉症スペクトラム障害)
「自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などが含まれます。“コミュニケーション(対人関係)の障害”と“興味や行動への強いこだわり”という2つの特徴が共にある場合、ASDと診断されます。集団の中では“いわゆる空気が読めない子”となってしまいがちな一方、興味のある分野をとことん追究し、大人顔負けの知識を蓄積している子も多くいます。
極端な偏食などで栄養が偏っていることも多く、治療はサプリメントの使用からはじめます。対人関係などは言語聴覚士が関わることで改善していきます」
<ASDチェックリスト>
□ 何かをするときはひとりでするほうが好き
□ 人の話をさえぎることがよくある
□ 好きなことには集中してほかのことが見えなくなる
□ 周りの人の気持ちがよくわかっていない
□ 特定のもの(動物、車など)についての情報を集めることが好き
□ アニメや映画に感情移入して世界に入り込んでしまう
□ いつも見ている部屋や人の服装などが違うとすぐ気づく
□ 電話番号や車のナンバーなど数字を覚えるのが得意
③SLD・LD(限定性学習障害)
「LD(学習障害)とも呼ばれます。全般的な知的発達の遅れはないのですが、聞く、話す、読む、書く、計算または推論する、という学習に必要な能力のいずれかが低く、学習に支障が現れるため“勉強が苦手”な子に見えます。また、学習の遅れがLDの“読み書き障害”によるものなのか、ADHDなど他の障害によるものなのかを見分けることが困難なため、特定が難しいという特徴もあります。
ADHDなどと合併する場合は、それらの治療をまず行います。まず知的能力に比べ、特定の分野の学習能力のみ、習得と使用が著しく困難であることを証明します。疑われる各分野のスクリーニングと心理・言語学的検査を行い、学習障害を引き起こしている認知過程を探り出し、医師・作業療法士・言語聴覚士らが協力して治療に当たります」
<SLD (LD)チェックリスト>
□ 聞き間違い、聞き漏らしが多い
□ 言葉で指示されたことに対して理解が難しい
□ 個別に言われたことは聞き取れても、集団場面では聞き取れない
□ 話し合いの流れが理解できず、ついていけない
□ 言葉のつまりや、思いつくままに話すことが多い
□ 順序立ててわかりやすく話すことができない
□ 適切な速さで話すことが難しい
□ 本を読んでもらいたがらない、本を見ない
宮尾氏によると「発達障害の症状の多くは、完治までいかなくとも、改善することが可能です。ペースは遅いですが、成長と共に症状は少しずつ良くなります。また、療育などのサポートやトレーニングを受けることで、さらなる改善も期待できます」とのこと。
それぞれのチェックリストに複数当てはまるようなら、まずはかかりつけ医や保育士・教師に相談するといいだろう。もし、自分の子どもが「落ち着いて人の話を聞けない」、「ふとした刺激に過敏に反応して、衝動的に動き回ったりしてしまう」など、「子どもだから……」というだけでは済まされないような状態だと気づいた場合、「発達障害」の可能性を考慮する必要があるかもしれない。
<取材・文/日刊SPA!編集部>