ライフ

航空会社勤務から鉄道会社の社長に…地方ローカル線の救世主が語る「トキ鉄」の今後

 今年、開業5周年を迎えた新潟県のえちごトキめき鉄道。「トキ鉄」の愛称で親しまれている同社は、直江津駅(上越市)を拠点に妙高高原駅(妙高市)までの「妙高はねうまライン」、あいの風とやま鉄道の市振駅(糸魚川市)まで乗り入れる「日本海ひすいライン」の2つの路線を持つ第三セクター鉄道だ。
鳥塚亮社長

鳥塚亮社長

 昨年9月、そんな同社の新社長に就任したのが、公募によって選ばれた鳥塚亮社長。2018年まで千葉県の房総半島内陸部を走る第三セクター、いすみ鉄道の社長を務めていた人物だ。

並行在来線が抱える問題をなんとかしたい

 もともと外資系航空会社に勤めていたが、実は大の鉄道好き。2009年に存続の危機に瀕していたいすみ鉄道の公募社長に就任すると、鉄道ファンの間で根強い人気のある気動車(キハ52型、28型)を導入し、豪華な食事が楽しめる「伊勢海老列車」など各種観光列車を次々と運行。今や全国の各鉄道会社が走らせている観光列車ブームの火付け役の1人でもあり、同社の知名度を全国区に押し上げた“地方ローカル線の救世主”だ。  ただし、同じ第三セクターでもトキ鉄は、2015年の北陸新幹線開業に合わせて並行在来線が分離独立したもので、国鉄民営化の際に割譲されたいすみ鉄道とは事情が異なる。 「私自身、以前は同じ三セクでも並行在来線にそこまで強い関心を持っていませんでした。ですが、10年後やその先のことを考えた場合、設備の老朽化などが重くのしかかってきて、会社や支援する自治体にも大きな負担です。鉄道業界にとって大きな課題であり、避けては通れない問題でした。そんなときにちょうどトキ鉄が社長を公募していて、これだ!と思ったんです」

小学校に訪問して感じた地元住民の鉄道愛

 とはいえ、鳥塚社長は東京出身。トキ鉄が走る新潟県西部に住んでいたこともなければ、深いつながりがあったわけではない。  しかし、決断を後押しする“ある出来事”があったという。 「去年の2月、直江津の小学校に招待されて子供たちの前で鉄道の話をしたんです。その学校では授業で鉄道について学んでいて、この町なんだろう面白いなって思いました。それに地元の上越市も私がいすみ鉄道の社長だったときに視察にも訪れていました。直江津は交通の要所で鉄道の町として栄えていたことは知ってましたが、今でも鉄道に対する思い入れが強かった。いくら鉄道会社が盛り上げようと努力しても地元の協力がなければどうしようもありません。だからこそトキ鉄に大きな可能性を感じたんです」  昨年12月と今年2月に企画した『親子夜行列車体験号』はいずれも即完売。それも利用者の多くは地元の親子連れだったという。 「昔は日本各地に夜行列車が走っていて、子供にとってはワクワクする特別な体験でした。私も乗ったときのことは今でもよく覚えており、そんな体験を商品として提供できればと考えたんです」
直江津駅ホームの学生用自習室

直江津駅ホームの学生用自習室

 また、直江津駅のホームには列車の待ち時間に学生たちが勉強できるように自習室を開設(※利用には乗車券、入場券が必要)。これも鳥塚社長のアイデアだ。 「地元には高校が多く、トキ鉄にとっても最大の顧客は通学で利用してくれる学生さんです。利益に直接結びつくものではないですが、鉄道は社会インフラです。将来を担う若者のためにこういう場所があってもいいと思ったんです」
次のページ
コロナの影響は?
1
2
フリーライター。鉄道や飛行機をはじめ、旅モノ全般に広く精通。3度の世界一周経験を持ち、これまで訪問した国は50か国以上。現在は東京と北海道で二拠点生活を送る。

記事一覧へ
おすすめ記事