お一人様の長居客を歓迎できる大発明の料金体系 本の読める店の挑戦
東京・初台にある本の読める店「fuzkue(フヅクエ)」。店内はブックカフェのように書籍が陳列されているが、席料が発生するビジネスモデル。それならマンガ喫茶のように時間制かと思えば、飲食物を注文するごとに席料は小さくなっていくという。
メニュー表はフードやドリンクなどの商品よりも、独自の料金システムの説明に多くのページを割く。そして快適な読書環境のために、店内での会話、タイピング、イヤホン装着時の注意事項など、客が守るルールが記され、ページ数は10ページ超え。
なにかと“注文の多い”お店だが、フヅクエは今年4月には下北沢に2号店も誕生し、確実に支持を広げている。店主の阿久津隆氏にユニークな料金体系が生まれた背景を聞いた。
慶應義塾大学時代の恩師である文芸評論家の福田和也氏の「一度は民間企業に勤め、社会を見るのがいいだろう」という言葉に、作家志望だった阿久津隆氏は卒業後、外資系金融機関に就職した。赴任先は縁もゆかりもない岡山県。3年後の2011年、転機が訪れる。
「仕事が嫌になって2週間くらい家に閉じこもっていました。ちょうどそのとき、東日本大震災が……。人生、何が起こるかわからない。このまま向いていないことで生きていくのはやめようと思いました」
25歳で阿久津氏は脱サラし、岡山で古民家をリノベーションしたカフェの共同経営者となった。飲食店の売上は基本「席数×回転率×客単価」で決まる。長時間の利用客は単価、回転率を下げるため歓迎はされない。しかし、心地いい場所・時間を提供していると自負していた阿久津氏は長居される客を歓迎していた。ただ会計時に、「長々とすみません」と言われるため、ブログに「客単価や回転率ではない喜びも店側にはある。長居してもらえばしてもらえるだけ幸せだ」と正直な思いを書いて公開すると……。
「大きな反響がありました。賛成だけでなく、多くの反対意見もあります。『そんなのは地方だから言えてるんだ』『東京じゃ不可能だ』『みんな本当はそうしたいんだけれども、現実は甘くない』など。そういう意見を読みながら、本当にそうかな、それなら東京でも挑戦してみよう、となりましたね」
客単価と回転率では測れないもの
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