酒という文化を終わらすわけにはいかない。業界の重鎮3人が語る、コロナ禍の光明
酒は文化そのものと言っていい。だが、コロナ禍で生まれた“令和の禁酒法”が、非情にもそんな文化を「悪者」に仕立て上げてしまった。
感染拡大の温床になるという理由から、飲食業が狙い撃ちにされ、酒類提供を伴う店はかつてないほど大きなダメージを受けている。
――弘兼さんは昨年、桜井さんの半生を辿った『「獺祭」の挑戦』を、今年4月には守川さんを描いた『六本木騎士ストーリー』を出版しています。
弘兼:実は、ここにいる3人は山口県岩国市の出身で、同郷の人間の活躍を応援したい気持ちからこの2冊の本の執筆を決めました。桜井さんとは、ご子息の一宏さん(現・旭酒造社長)と私がNY滞在時にお会いしたことがきっかけでお付き合いが始まったんです。
桜井:海外に打って出ようと、「獺祭の名前を売ってこい」と一宏をNYに派遣した’06年まで遡りますね。
弘兼:その後、桜井さんと会食する機会があり、一宏さんとすでにお会いしていたことから、初対面で意気投合しました。振り返ると、獺祭は15年前から、海外進出を考えていたということですよね?
桜井:もちろん。タイミングもよくて、MeguやNobuなど、洗練された日本食を提供する高級レストランが次々に開店していました。駐在員など現地の日本人だけを相手にしていたそれまでのNYの和食店とは違い、内装に凝ったゴージャスな店が増えていた。そんな高級店で出すSAKE(酒)がごく普通の日本酒では店としても格好がつかないので、獺祭などの地酒を出すようになった。NYは酒の大きな市場になると思いました。
弘兼:好機を逃さなかったわけですね。守川くんは、僕の中学・高校の後輩。でも、年齢が20も違い、接点がなかった。校長先生が東京に来る機会があり、「お前の後輩がやっている店がある」と聞き、六本木のお店に遊びにいったんです。
守川:当時、六本木でクラブチックを経営していて、校長先生から「今から先輩を紹介するから」と言われたので店に行くと、『島耕作』の弘兼先生がいらっしゃった!?
弘兼:本当は、校長先生がクラブに行きたかっただけかもね(笑)。
守川:あの頃は30歳くらいで、まだ1店舗しか持っていませんでした。
弘兼:当時、夜の街でナイトクラブが成功するには、反社会勢力との付き合いが欠かせないというイメージもあったし、「六本木」「バブル」「水商売」と三拍子揃っていたから、正直、警戒したよ(笑)。ところが会ってみたら、裏社会と一切関係を持たずにやっているので、珍しいなと思い漫画に描きたくなった。バブル期には、編集者とよく銀座チックに行ったけど、あれだけ若くて綺麗な女性がいる店はほかにありませんよ。
守川:僭越ながら、先生はもう少し味のある熟女が好みで、若くて綺麗な女性には興味ないじゃないですか。
弘兼・櫻井:(笑)。
守川:クラブチックを立ち上げたのは、’95年で27歳のときです。昭和が終わり、バブルが弾け、こんな時代に夜の店を始めるのは「バカのやること」とよく言われました。昭和から平成にかけて、六本木ではテナントの保証金だけで数億円もかかったが、僕が店を始めた頃には空き店舗も多く、保証金も借り手側との交渉に応じてくれた。だから27歳の若造が店を始められたわけです。チックを開店した頃は、暴力団にみかじめ料をよこせと脅されたり、拉致されたこともあります。
でも、一度でも関わりを持ったら、一般のお客様は離れ、店は終わりです。だから、一切関係を持たずにやってきました。ただ、今の六本木はヒルズやミッドタウンができてビジネスマンが増え、高層住宅も多い。ひと昔前なら、六本木に住むなんて考えられなかったけれど、今や子供が歩いて通学する安全・安心な街に変わりつつある。コロナ禍になって1年以上たちますが、六本木にこの春、2店舗をオープンしました。ただ、開店はコロナ前に計画しており、感染拡大で一時は断念していたんです……。
6月20日で緊急事態宣言は解除されたものの、東京や大阪など大都市圏では、まん延防止等重点措置によって今も酒類の提供は制限されたままだ。
そんななか、累計発行部数4600万部超のコミック『課長 島耕作』シリーズの作者で愛飲家の漫画家・弘兼憲史氏、純米大吟醸「獺祭」を世界的ブランドに育て上げた旭酒造会長・桜井博志氏、そして、高級クラブ「チックグループ」オーナーとして夜の街・六本木で成功し、ワインの輸入販売やレストランの経営も手掛けるトゥエンティーワンコミュニティ代表取締役・守川敏氏の3人が一堂に会した。
彼らは飲食暗黒時代とも言うべきコロナ禍においてどんな光明を見い出しているのか。
実は山口県岩国市出身の3人
夜の街・六本木を30年見てきた男
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