サッカー日本代表“長友不要論”とは何だったのか。サウジ戦で変わったこと
不要論を一蹴した長友。サウジアラビア戦では大きな収穫が
10月に行われたオーストラリア戦でシステムを4-2-3-1から4-3-3に変更し、それ以後はすべて勝利を収めてきた日本代表だが、試合内容に不満足なファンやサポーターからは森保一監督の解任を求める声が挙がり続けている。その矛先は選手らにも向き、最たるは35歳のベテランDF長友佑都の不要論だった。 中国戦でも目立った活躍はなく、後半13分に中山雄太と交代。勝利に貢献したとは言い難く、不要論の声は強さを増していった。それに対して「批判はガソリン」と闘志を燃やした長友は、5日後のサウジアラビア戦で躍動。不要論を一蹴してみせた。 サウジアラビア戦では、長友の何が変わったのだろうか。それはポジショニングだ。これまでより高い位置にポジショニングしたことで、相手の陣形を崩すきっかけを作っていた。 ポゼッションサッカーを標榜する日本代表において、しばしば「間で受ける」というキーワードが出てくる。これはDFラインとMFラインの間のスペースで受けることを意味しており、チャンスを作るためのひとつの手法である。ただし、各選手がしっかりとしたポジションを取っていなければ、間で受けてもチャンスにはつながらない。日本代表における長友は、中国戦まで有効的なポジショニングができていなかった。
左サイド前線を気遣う発言
中国もサウジアラビアもシステムは4-2-3-1だった。長友が低い位置でポジショニングすると、引きつける相手は2列目の左サイドの選手になる。そのときに南野拓実や大迫勇也が間で受けようとすると、センターバックあるいはサイドバックが対応し、トライとカバーの役割がはっきりとする相手のDFラインは崩れない。そこへ守田英正がサポートに近づくと、相手のボランチが加わりボールをうまくコントロールできるスペースすら失ってしまっていた。 一方のサウジアラビア戦での長友は、これまでよりも数メートル高い位置にポジショニングし、相手のサイドバックを引きつけた。これによって、左サイドでも数的優位な状況を作り出せるようになった。左のセンターバックを務めた谷口彰悟がボールを持ち出し、相手のサイドハーフを引きつけてから間のスペースへ縦パスを出すことで、南野や大迫は相手のセンターバックを背負った形でボールを受けられるようになる。相手のセンターバックを引き出してDFラインにギャップを作ることが、「間で受ける」ことの意義で、この形をつくるためにも長友は高い位置を取らなければならない。 もちろん、このポジショニングは相手や戦術によって変わる。相手のカウンターをケアする守備重視であれば、それほど高い位置は取りづらいだろう。しかし、以前の長友は豊富な運動量でそれをカバーする積極的な上下動が売りの選手だった。当初は年齢による運動量の衰えで不要論も致し方ないと思えたが、それはメンタル面の問題でサウジアラビア戦では衰えを全く感じさせないパフォーマンスを見せてくれた。 近年の日本代表における長友は、コンビを組むことになる左サイド前線の選手を気遣う発言をよくしていた。現在であれば南野になるが、それより以前からコンビを組む選手が「思い切ってできるように」「やりたいようにできるように」と、前方の選手が生きる形を模索しているようだった。一方で、最近は南野にしても守田にしても、「佑都さんが高い位置にポジショニングできるように」という言葉が合言葉になっていた。これから察するに、ベテランへの遠慮と後輩への気遣いが混同して、本人たちも気がつかないうちに「賢者の贈り物」状態になっていたのではないだろうか。
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スポーツライター。日本最大級だったサッカーの有料メディアを有するIT企業で、コンテンツ制作を行いスポーツ業界と関わり始める。そのなかで有名海外クラブとのビジネス立ち上げなどに関わる。その後サッカー専門誌「ストライカーDX」編集部を経て、独立。現在はサッカーを中心にスポーツコンテンツ制作に携わる
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