松下政経塾出身総理誕生、まだ早い!
菅首相の「退陣時期」が延び延びになっている一方、永田町では水面下でポスト菅レースが激化しているが、次期首相候補として名前が取り沙汰されている議員を見わたすと、とりわけ目立つのが「松下政経塾出身」の面々だ。
「一番総理に近い男」と言われる1期生・野田佳彦財務相を筆頭に、3期生・樽床伸二前国対委員長、4期生・原口一博前総務相、8期生・前原誠司前外相、同じく8期生・玄葉光一郎政調会長……と枚挙に暇がないほど。
79年に、故・松下幸之助松下電器工業社長(現パナソニック)が新しい国家経営を推進する指導者育成のため設立して以来、塾の出身者が首相となれば初の快挙となるが、この事態を「時期尚早だ!!」と憤る人物がいる。松下幸之助門下生の一人、2期生・山田宏前杉並区長だ。
昨年、やはり同窓の10期生・中田宏前横浜市長や地方の首長らと決起し「日本創新党」を旗揚げした山田氏だが、実は90年代前半、“日本新党ブーム”が吹き荒れた衆院議員時代に、現在のポスト菅レースを賑わす面々と行動を共にしていたこともある。今も党派を超えて物申すご意見番として政経塾出身者のなかでも「兄貴分的存在」という山田氏に日刊SPA!が直撃した。
――菅首相が居座る状況が続いています。
山田 実にけしからん話ですよ。日本を内憂外患に陥れた菅首相はまさしく万死に値する。そもそも辞める辞めないの発端となった、鳩山前首相との間で交わされた「覚書」を取っても、まず一番目に「民主党を壊さない」、二番目に「自民党政権に逆戻りさせない」、三番目になってやっと「震災対策」が出てくる始末で、自分のことしか考えてない……。小泉元首相ではないが、なぜこの国家の一大事に際して「民主党などブッ壊れてもいい」と言えないのか!
――次期首相候補として、松下政経塾出身議員の面々が挙がっていますが。
山田 まだ早い。とはいえ、経験から言えば、やはり野田さん、前原くんでしょう。ただ、残念なことに、“主役”の器ではないのに周囲からおだてられてその気になっている人間もいるようです。「鳩山、菅が務まるなら、オレも」という気持ちはわからなくもないですが(苦笑)。しかし、国家の危急存亡のときに、国家の哲学やビジョンもない人間がどうして宰相が務まりますか。政経塾にも、こうした軽い手合いは残念ながらいるのです……松下幸之助翁が天国で泣いてますよ。ただ、全員がそうということでは、当然ないです。
――政経塾の1期先輩にあたる野田財務相は、ポスト菅の有力候補と見られていますが、「財務官僚に取り込まれている」という世論の見方も根強いです。
山田 財務相というポストは大変でしょうが、予算を通して国のすべての仕事を見渡しているわけです。その意味では、首相になる“準備”はできている。ただ、彼のマイナス面はどういう国家ビジョンを持っているのか、はっきりわからないという点です。先ほど国家のビジョンと述べたが、彼にはそれがある。5年ほど前、野田さんは政経塾出身の議員を集めて「国策研究会」を立ち上げ、国家の基本的なビジョンを練っていました。そこで彼が説いていたのは、東京裁判史観の否定です。出発点は正しいし、彼にはビジョンを描く素地がある。演説も上手いので、こうした構想をしっかりまとめれば国民に伝わるでしょう。
――山田さんの京大時代の後輩で、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の騒動の際も、叱咤激励する仲であった前原前外相も候補に挙がっています。
山田 前原くんは確固とした国家ビジョンを持っています。しかし一方で、国交相、外相の仕事を途中で辞めているのが傷です。こうした印象は致命傷になりかねないし、だから彼には「まだ早い」と言いました。次のカードとして取っておく人だと思いますね。ましてや、今の日本には外相に適した人材がいないのです。1年間に外相がころころ変わっていては、国益を損なう。それを担えるのは彼しかいません。彼には「外相を10年続けてみろ」と話しています。28年間の長きにわたりソ連の外相を務めたグロムイコになれということですよ。首相というポストや派閥の権力闘争などから距離を置き、じっくりと外交に取り組んで、はじめて首相の器になるのではないでしょうか。
――政経塾出身者ではほかに、原口前総務省、樽床国対委員長、玄葉政調会長の名も取り沙汰されていますが。
山田 原口くんには、1回頭を丸めて修行してこいと言いたい。今回の内閣不信任の採決のときも直前にコロッと態度を一変させたり、大阪維新の会ができたら日本維新の会をつくったり……テレビカメラの向こう側ばかりを気にして、その場限りに振る舞っている。樽床くんは人に嫌われないのが持ち味。だから、彼のところには人も情報も集まり、“情報交差点”のような存在です。ただ、国家観やビジョンなどはあまり重視してないようにもみえます。それはそれでいい。彼は主役ではなく脇役で光る人だし、名脇役になれる。彼のような存在は不可欠なのです。前原くんと同期の玄葉くんは、国家ビジョンを持った政治家ですが、現在のような危機のときでなく、もう少し国が安定してからリーダーとしての頭角を現してくると思います。
――となると、やはり次期首相は野田財務相となります。彼は大連立も噂される次の内閣で、どのような役割を演ずるのでしょう?
山田 野田さんが首相になったとして、衆参が捩れている今、たいしたことはできないでしょう。大連立には、安全保障や外交など国家の基本政策を、民主、自民両党が一致させることが必須ですが、さほど難しくはない。民主党の中心にいるのは、もともと自民党の人間ですから。自社さ政権で社会党の村山首相が国旗、国歌そして日米同盟を認めたように、基本政策の合意がなされるだろうし、日本にとってはいいことです。そのためには、民主党内の大連立反対派を切る覚悟が必要になってくる。野田さんは総理大臣となって1年間は昼行燈を徹してほしい。1年間死んだふりをして、そして「吉良邸」に討ち入りするときを待ってほしい。政経塾出身の志ある者は民主党の外にいくらでもいますから……。民主党をぶっ壊してでも、国家の基本政策の歪みを正す決意を持ってほしい。そうなれば政界再編が一気に進むでしょうね。
【山田 宏】
前杉並区長。京大法学部卒業後、松下政経塾(2期生)を経て東京都議会議員に。その後、日本新党結党に参加し衆院議員に初当選。日本新党ブームを巻き起こしたこのときの同期議員が、野田佳彦、樽床伸二、前原誠司、中田宏(10期生)など政経塾出身の多士済々だったという。10年、前横浜市長の中田宏ら地方の首長らと決起し「日本創新党」を旗揚げ。永田町というコップの中だけの政治システムや旧態依然とした霞が関主導の行政システムに異を唱え、地域主権型道州制の導入、公務員数削減、法人税減税、自主憲法制定、日米同盟再構築などを訴える。現在、地方のネットワークを生かし、震災被災地への支援活動を積極的に行っている。ハッシュタグ