蔓延する「LGBTQ+の作品を批判してはいけない」という風潮――サム・スミスのMVをめぐる議論から考える
岸田総理の「社会が変わってしまう」に、荒井勝喜元総理秘書官の「見るのも嫌だ」。性的少数者や同性婚のあり方をめぐって驚くべき発言が繰り返されました。欧米メディアからも“G7で唯一同性婚を認めない国”と報じられ、今後の対応次第では先進国としての立場が揺らぎかねない状況です。
では、LGBTQへの理解が進んでいるとされる欧米はどうかというと、いまある音楽をめぐって議論が巻き起こっているのです。
それは「Stay With Me」の世界的大ヒットで知られる歌手、サム・スミスの新曲「I’m Not Here to Make Friends」のMV。全身ピンクのドレスからスリットの入った黒のロングスカートに着替え、最後はキラキラと飾りのついたコルセットにニップレス姿で踊りまくり、際どい絡みもみせています。
かねてよりノンバイナリー(自らの性が男性にも女性にも当てはまらないという考え)だと公言しているスミスですが、ここまで目に見える形で自らの性的指向を訴えたのは初めてでした。
ところが、これに批判の声があがったのです。そのほとんどは卑猥な演出と太ったスミスのミスマッチに不快感を示すもの。性的少数者に寛容で理解が進んでいるとされる欧米でなぜこんなことが起きてしまったのでしょうか?
アメリカの全国紙『USA Today』(2023年2月2日)の取材を受けたUCLAの社会学教授のアビゲイル・サガイ氏は以下のように分析します。
性自認と性的志向と体型のイメージはそれぞれが密接に関連しているので、同性愛者で太ったサム・スミスが欲望を率直に表現したときに、“世間の期待するふつう”からはみ出してしまう。そのときに反発を買ってしまうというわけですね。
同様にファッション誌『Vogue』電子版(2023年1月31日)も、もしサム・スミスがハリー・スタイルズのようにスリムだったら、ここまで笑いものになったり議論の対象になっただろうか? と疑問を投げかけています。
凝り固まった“ふつう”から反感が生まれるのだから、「I’m Not Here to Make Friends」のMVは性的少数者や体型に悩む人たちを勇気づけるものである。『USA Today』と『Vogue』はいずれもサム・スミスを支持していました。
人気アーティストのMVをめぐって巻き起こった議論
誰も「いい曲か、悪い曲か」を話さない議論
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