更新日:2023年04月12日 15:42
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坂本龍一氏が日本の音楽に与えた影響を振り返る。国民的大ヒット曲の編曲も

 坂本龍一が3月28日に71歳で亡くなりました。2014年に中咽頭がんを発症。のちに寛解したものの2020年に直腸がんと診断された際に各所への転移が判明し、闘病生活が報じられるなかでの訃報でした。

歌謡曲やJポップの歴史にも名を刻んだ坂本龍一

坂本龍一

大貫妙子 & 坂本龍一『UTAU』/commmons/AEI

 YMOの世界的なヒットや、映画『戦場のメリークリスマス』のテーマ曲「Merry Christmas Mr. Lawrence」は言わずもがな。1989年には映画『ラストエンペラー』の音楽でアメリカのアカデミー賞作曲賞を日本人として初めて受賞し、1992年のバルセロナ五輪開会式で指揮者を務めるなど、輝かしいキャリアを誇ります。    もともとポップスのスタジオミュージシャンや編曲家としてキャリアをスタートさせた坂本龍一。山下達郎や大瀧詠一らの伝説的バンド・「ナイアガラ・トライアングル」の「パレード」ではキーボードを担当。4人組コーラスグループ「サーカス」の代表曲「アメリカン・フィーリング」(1979年)のアレンジも行うなど、歌謡曲やJポップの歴史に名を刻む存在でもあるのです。  そこで今回は“教授と歌モノ”にクローズアップして、コアな音楽ファン以外にも親しまれた楽曲の魅力を再発見したいと思います。

①「砂の果実」中谷美紀

 原曲は英語詞の「The Other Side of Love」(坂本龍一 featuring Sister M)。売野雅勇による日本語詞でリメイクされました。歌いだしにメインテーマを持ってくるドラマチックな展開が強烈な印象を残します。  しかしその一発目のコードが“ふつう”じゃない。進行の過程で橋渡し的な役割を担う不安定な響きを、あえて頭に持ってきています。ベースがファの♯でD7コードです。清涼感あふれるイントロとの対比で、突如として大きな雲に覆われるように場面を転換していく。  ところが、そのまま短調でオチをつけずに最後はメジャーコードでサラッといなすのが粋なのですね。視界が開けるようにドライに結んで、転調と歌の音域を落としてクールダウン。そして、再びメインテーマへとつなぐ。  週刊文春のかつての名物連載『考えるヒット』(近田春夫)がこの曲を取り上げた際、“世界のサカモトには歌モノの才能がない”と評していたのを覚えています。確かに言葉とメロディのかみ合わせが少しぎこちなかったり、“もう少し泣かせてよ”といった物足りなさもありつつ、その一方で歌謡曲のフォーマットで禁欲的かつ聞き手の感傷を満たす二律背反に挑んだ楽曲だと感じるのです。
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国民的大ヒット曲の編曲も
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。Twitter: @TakayukiIshigu4

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