更新日:2024年05月01日 10:09
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東大卒のポーカー王者が、じつは投資でも成功していた「どれだけ株価が上がるかは考えない」勝負師の勝ち方とは

「究極の頭脳バトル」ともいわれるポーカー。そんな勝負の世界で活躍するのが、東大卒のプロポーカープレイヤー・木原直哉氏だ。 2012年には、第42回世界ポーカー選手権(WSOP)で、日本人として初優勝。優勝賞金の約51万ドル(当時のレートで約4000万円)を獲得した。さらに2022年の第53回WSOPでは3つのイベントでファイナルテーブルに進出(3位、5位、3位)するなど、まさに日本ポーカー界のレジェンドである。 そんな彼の視線は今、ポーカーだけでなく「投資」にも熱く注がれている。本格的に投資を始めたのは約3年前。資産は非公表だが、「’23年はポーカーで得た年間最高利益を上回った」という上達ぶり。YouTube番組で対談したカリスマ投資家のエミン・ユルマズ氏もその投資の腕を絶賛していた。(以下、木原直哉氏の寄稿) ポーカーと投資に共通する「勝ち筋の見つけ方」とはどのようなものか。彗星のように現れた、“投資界の大型新人”の投資術に迫った。

ポーカーも投資も「ロジック」がモノを言う

私が本格的に投資を始めたのは、およそ3年前。コロナ禍で海外に渡航できなくなっていた時期に、優待用として保有していた東京ドームが海外ヘッジ・ファンド「Oasis」に狙われ、それを三井不動産が友好的TOBしたのを見て「面白い」と思ったのがきっかけです。 ただ、それ以前も優待目的で少しだけ投資をしていました。三越伊勢丹HD(東P・3099)や、「銀だこ」を運営するホットランド(東P・3196)、「牛角」のコロワイド(東P・7616)、タカラトミー(東P・7867)などの銘柄を300万円分ほど長期保有していましたが、ほぼ放置でした。それが今では毎日、相場に張りついています。 ポーカーは心理戦のイメージを持たれることが多いですが、実は「ロジック」がおおいにモノを言う世界。ポーカーで培った戦略性は投資でも生きています。 私が投資をするうえで特に重視しているのは、「大きく下がらない銘柄を買う」ということです。株式投資では多くの人が「どれだけ株価が上がるか」と、値幅を取ることばかり考えますよね。しかし、私は逆で、「大きく下がらないこと」を重視するのです。 その結果、保有してからは横ばいの銘柄が多いですが、大きく下落する銘柄はほぼありませんし、結果として十分にプラスになっています。

値動きが激しい銘柄は「触らない」

今、僕が監視している銘柄の多くが、いわゆる小型株です。具体的には、主に時価総額20億〜200億円の企業を物色しています。これらの企業の価値を正しく見極めて、「もうこれ以上、下がることがない」と思える企業を買い集めて、上昇を待ちます。「マイナスしなければ、どこかでプラスする」と思っているからです。 現在の保有銘柄数は、20から30銘柄。値下がりしてより“お得感”が増したら少しずつ買い増しをしていきます。購入の理由が割安感の場合、上がったら割安感が薄れていくので少しずつ減らしていきます。上がったら少しずつ利確して、また別銘柄を物色して仕込む……ということを繰り返すのです。 そして、現時点で保有している銘柄の半分は不動産関連企業です。日本では東京の地価が高いイメージがあるかと思いますが、今やソウルの半分、ニューヨークやサンフランシスコの中心部の数分の一という割安さで放置されているのです。 それがインバウンド効果や地政学リスクなどから価格訂正が起こると思っています。直接不動産を購入するのはとてもハードルが高いですが、不動産企業の株を買うのはハードルが低いので、不動産銘柄をたくさん買っています。

「分からない分野」は買わない

一方、AIなど「自分がわからない分野」は買いません。今はAI関連が注目され実際に高騰する銘柄もあります。しかし、そのぶん値動きも激しくなります。 「うまくいけば3倍になるが半分になるリスクもある」という銘柄は、触れたくないのです。下がった時に“おいしい”と思って買い増しすることができない銘柄はあまり買いたいと思いません。 たしかに、値動きがあまりない銘柄は触りたがらない人も多いです。しかし、本来の投資という意味では、値動きが小さいほうが正義なのです。逆に株式投資では値動きのリスクがあることに対してより高いリターンがないとリスクをとる価値がないという意味で「リスクプレミアム」という概念があるほどです。 投資に何を求めるかは人それぞれですが、値動きは小さいほうがいい。大きな値動きでギャンブルをしたいという人は自分の記事から得られるものはないと思います。
ポーカー

ポーカーの世界で培った戦略性は投資の世界でも生きている(写真はイメージ)

競争相手が強くない“テーブル”を選ぶ

大型、中型株ではなく、小型株を選ぶ理由はほかにもあります。 一般的に投資といえば、トヨタやファーストリテイリングなど日本を代表する大型株に注目が集まります。しかし、時価総額が大きな大企業はビジネスを多角展開しているので、ひとつの事業が好業績でも「実はほかの事業が足を引っ張っていて株価が低迷している」なんてこともある。大型株は、どの要因が株価に影響しているのかが、素人には摑みづらいのです。 さらに大型株には大口の機関投資家など“強い投資家”の資金が多く入っています。こういった投資のプロを相手にしたとき、“素人”には勝ち目がありません。 対して小型株は、そういった大口の目があまり向いていないことに加え、事業内容がシンプルなので業績も予測しやすい。さらに大きな資金を入れづらいので、強い個人投資家の監視対象になりにくいです。 ビジネスでもポーカーでも、同じ”テーブル”に強い相手がいないほうが勝ちやすいのは当然です。確実に勝てる場面を見定めることは、ポーカーも投資も同じだと思います。

いかに「株価が上がる理由」を描けるか

とはいえ、バリュー投資では、「割安」という理由で飛びついたものの、その後も「低空飛行のまま儲からない」なんて落とし穴もよく耳にします。 もちろん、僕も銘柄を選定する際は、PERやPBRといった指標に着目してスクリーニングをかけます。しかし、そういった指標以上に大切なのは「株価が上がる理由」があるかです。決算書の中身に加えて、経済状況、経営状況を分析し、自分なりの仮説を立てて、日々検証する作業は欠かせません。 ひとつ具体例を挙げてみましょう。2023年に僕が実際に保有していた「ホクリヨウ」(東S・1384)という北海道地盤の鶏卵メーカーです。 2023年春頃には、鳥インフルエンザが猛威を奮っていてホクリヨウも30%もの鶏の処分を余儀なくされました。これは経営的には大打撃です。しかし、それ以上に鶏卵価格が高騰し卸売価格が2倍近くになっていたことで、想定に反して4-6月期の業績は好決算に終わりました。 そこで鶏卵卸売価格を確認するとまだ高止まりしていたので、「7-9期の決算もよいはずで、株価にはその好決算が織り込まれていない」と仮説を立てたところ、みごとに的中。10月以降は鶏卵卸売価格が落ち着いてきたので、その決算直後に売却しました。 株を買う時は、買うに値するしっかりとした理由が必要です。業績が想定と違うならその理由を考えますし、業績が想定通りなのに株価がついてこなかったら、その業績の上昇がいつからみんなに浸透していたのか振り返って考える。研究者みたいと思われるかもしれませんが、理学部出身の自分としては、ごく自然に行っていることなのです。(全3回/1回目) <取材・構成/アケミン>
プロポーカープレイヤー。東京大学理学部卒後、ポーカープロに。12年の第42回世界ポーカー選手権大会(WSOP)で、日本人として初優勝をはたす。Xは@key_poker
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