異文化の狭間にある奇食は歴史も動かす!?
―[[奇食・ゲテ食]愛好家の主張]―
レバ刺しが禁止になるなど、何かと「食と安全」が話題になる昨今。そんななか、蛇やサソリ、昆虫など通常の神経であればどう頑張っても食えないものを平然と食う人々が少なからずいる。このような寄食行動の根底にあるものは何なのか? 専門家に話を聞いた
◆ゲテモノ食いは歴史を動かす!?
古今東西、奇食をたしなむ人の種類は、好奇心旺盛な旅行者と天真爛漫な子供を除けば2つです。一つは、知的階級。食のタブーを冒すことは本能に逆らう行為であり、それを行うには常人よりも高い知性が必要だからです。もう一つは傾奇者。江戸時代の傾奇者は、ミミズをどんぶりいっぱいに載せて麺のように食べて粋がっていたと言われています。
その根底にあるのはダンディズム。ものの味は二の次で、反市民社会、反常識、タブーへの挑戦、社会への嫌がらせなどを体現するためのパフォーマンスなのです。作法としては、その様子を見て嫌悪し、騒いでいる人々の有り様を優雅に鑑賞しながら食すのが正しい。騒ぐ人がいないと奇食が成立しませんからね。
しかし元来、奇食とは相対的な概念にすぎない。イスラム教徒にすれば豚、欧米人からすれば鯨。レバ刺しも海外からすれば奇食の部類に入るでしょう。ゴキブリを食べる民族もいます。こうした異文化のはざまにおける奇食は食文化を創造し、歴史を動かすという意味で一定の意義があります。明治時代、牛肉はゲテモノ扱いでしたが、牛鍋屋に通った新し物好きがいなければ日本人の食生活は貧しいままだったかもしれません。美食と呼ばれるフランス料理も、実は奇食と呼ばれていた食材を発端としているものが多いのです。
ただ個人的には、文化的背景のないゲテモノをわざわざ作り出して食すことには、100mぐらいの距離を置いていたいです(笑)。
【杉岡幸徳氏】
作家。東京外国語大学院在学中にドラッグ詩人について書いた論文が騒動を起こす。その後世界を放浪し、数々の奇現象に触れる。著書に『世界奇食大全』(文春新書刊)など
取材・文/川口友万
― [奇食・ゲテ食]愛好家の主張【4】 ―
『世界奇食大全』 あなたはどこまで食べられる!? |
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