更新日:2012年08月13日 14:26
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オスプレイはとても安全だった!?

オスプレイ 老体に鞭打ち森本敏防衛相自ら試乗した最新型輸送機MV22オスプレイ。「安定して快適だった」というが、いまだに今年4月にモロッコでの訓練中に発生した墜落事故(2人死亡・2人負傷)、6月に米フロリダ州での訓練中に発生した墜落事故(5人負傷)の調査結果は上がってきていない。加えて、明らかになった“軽度の事故率”がオスプレイに対する不信を強めている。  これまで米海兵隊は、被害総額が200万ドル以上、あるいは死亡または全身不随にいたる障害などを引き起こす「クラスA」(※クラスA~Cの内部基準は下記を参照)の事故率(10万飛行時間に対する事故発生件数)を1.93件と公表してきた。「米海兵隊平均の2.45件よりも低いから、オスプレイは安全だ」と主張してきたわけだ。  ところが’01~’12年における「クラスB」の事故率は米海兵隊平均の2.07件を上回る2.85件、「クラスC」は同4.58件を大幅に上回る10.46件だったことが明らかに……。米海兵隊は、できる限りの情報を公開することで不安の解消に努めようとしているようだが、これでは反発は必至か。防衛省関係者もこう嘆息する。 「防衛省としては、すべての情報を公開するよう、当初から米海兵隊に呼びかけてきたんです。情報が明らかにならないから、墜落事故ばかりがクローズアップされるんだと。クラスB、Cの事故率についてもそう。数字ばかりが独り歩きしてますが、実際には小さな部品の欠落など、機体の些細なダメージについても含まれているんです。その点をきっちり説明しないと、国民の不安は高まるばかりです」  この防衛省関係者によれば、オスプレイ以上に多くの事故を引き起こしている機体は数多くあるという。手元に「機種別、年度別の事故件数」と題した、機体の比較表がある。その表でひときわ目を引くのは「AH1W」。「スーパーコブラ」と呼ばれる全天候型の攻撃ヘリだ。’06~’11年の6年間で同機が引き起こしたクラスAの事故は、なんと9件。あくまで、飛行時間を加味しない、年度別の事故件数に過ぎない数値だが、スーパーコブラはオスプレイの2件(’06~’11年)を大幅に上回る事故件数を記録していたのだ。  このほかにも6年間で9件ものクラスA事故を起こしている機体がある。ヘリと同じように垂直離着陸が可能な攻撃機「AV8B ハリアーII」だ。同機は今年5月に岩国基地で、デモフライトを実施しているのだが……なぜだかオスプレイと同様、反対運動が巻き起こったという情報は聞こえてこない。
クラスA事故

左項「H-46」が現在、老朽化が懸念され、オスプレイとの入れ替えが検討されている輸送ヘリ。真ん中「CH-53E」は岩国基地の大111航空隊でも運用されている輸送ヘリ。右項「AV-8B」がハリアーII

「ハリアーは’84年に導入されましたが、試験運用段階(’79~’84年)ではクラスAの事故率が400件を超えていました。’85年で12.20、’86年で10.83、’87年22.51件と、その後も高い事故率を記録したのです。現在、運用されているCH46も同様に、試験運用段階および導入開始直後は事故率が高かった。初期段階の事故率を比較してみると、オスプレイの事故率が異常に高いとは言い切れません」  防衛省関係者が話すように、陸・海・空自衛隊でも導入されたCH46の運用開始当初の事故率は以上に高い。「米海軍省・海兵隊における過去のクラスA事故」という資料によれば、運用開始翌年の’65年は11.07、’66年は5.98と下がるが、’67年以降は22.60、26.06(’68年)、17.95(’69年)、14.96(’70年)と高止まり。1~2件程度に落ち着いたのは’98年以降のことなのだ。運用開始が’05年のオスプレイと比較すると、その事故率の高さが際立つだろう。 ⇒資料の詳細はこちら https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=267894  なお、たびたび報道されているように、オスプレイの行動半径はCH46の4倍以上に達する。空中給油を実施すれば、さらに倍近くに行動半径は広がる。時速は倍の500km/時。貨物搭載量は、約4倍の9100kgだ。一方で騒音問題も指摘されているが、老朽化したCH46をはるかに上回る能力を秘めているのは明らか。安全性に万全を期すのは当然のことだが、もっと冷静な議論が必要と言えるだろう。 ※「米政府の内部基準」 <クラスA> 政府および政府所有財産への被害総額が200万ドル以上、国防省所属航空機の損壊、あるいは死亡または全身不随に至る障害もしくは職業に起因する病気を引き起こした場合 <クラスB> 政府および政府所有財産に対する被害総額が50万ドル以上200万ドル未満、1件の事故の結果として負傷または職業上の疾病が恒久的な障害をもたらす場合、または3名以上が入院した場合(事故報告の目的に限っては単なる診療や診断は含まれない) <クラスC> 政府および政府所有財産に対する被害総額が5万ドル以上50万ドル未満、事故当日を除いて1日以上の欠勤をもたらす不要を疾病が引き起こした場合 <取材・文/池垣完(本誌) photo by Official U.S. Navy Imagery from Flickr>
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