更新日:2012年10月12日 10:33
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ネットでの誹謗中傷に侮辱罪は成立するのか?

 インターネット上のどこかでは毎日と言って良いほど、頻繁に「炎上」事件が起きている。  不用意な発言がネットユーザーの逆鱗に触れてブログが炎上、個人情報を特定されたり、学校や職場など所属機関に電話やメールで「抗議」をされたり……ただ、こうした事件の当事者が具体的な法的手段を取ることは非常に稀で、じっと沈黙を貫くうちに別の事件が起き、ほとぼりが冷めるというケースが一般的だ。だがこれらのネット事件を法的に解釈すると、どのようになるのか?  ネット事件の訴訟問題に詳しい、フォーサイト弁護士事務所の春山修平弁護士に、よくある事例や代表的な事件を例に回答してもらった。 【CASE1】 ネット 昨今、「ネット右翼」「ネトウヨ」と呼ばれる性質の書き込みでは、少数民族やマイノリティ、他国に対する誹謗中傷が行われる場合が多い。これについて侮辱罪は成立するのか (差別の根拠について立証責任は生じるのか)?そして、成立する場合と成立しない場合の差はどこにあるのか?  前提としては、下記のとおり。  「名誉毀損には、刑事上の名誉毀損罪(刑法230条)と、民事上の名誉毀損(=不法行為(民法709条))があります。侮辱にも、刑事上の侮辱罪(刑法231条)と、民事上の侮辱(=不法行為(民法709条))があります。刑事上の名誉毀損罪・侮辱罪は、追及主体は検察官。民事上の名誉毀損・侮辱の追及主体は被害者本人になります」(春山氏)  上記を踏まえ、CASE1の場合は刑事・民事いずれにも当てはまる回答になるため、特に区別なく回答してもらった。 「少数民族やマイノリティ、他国を誹謗中傷する書き込みをしたとしても、これを名誉毀損・侮辱として法的責任を問うのは難しいと思います。『●●民族』とか『●●国の国民』などといったくくりでの書き込みでは、その対象が具体的な個々人として特定されているわけではないため、個々人の社会的評価や名誉感情が傷つけられたというのは困難ですし、個々人への侵害の度合いは一般的に弱いものとなるからです。そのため、そもそも差別の根拠があるかどうか、といった議論はされません。ちなみにこの点については、石原都知事の『ババア発言事件』(東京地裁H17.2.24)が参考になります」  つまり、ネット右翼による差別的な書き込みは「根拠の乏しい事案に基づく妄言」という扱いになるのだ。  ただし、「『●●民族』とか『●●国の国民』といった上記書き込みであっても、個人が特定できる要素があれば、具体的な特定人に対する誹謗中傷と捉えられるケースもあり得ます。そのような場合には、当該特定人に対する関係で名誉毀損・侮辱が成立する可能性はあります」  つまり、成立・非成立の差は、「具体的な特定人に対する誹謗中傷かどうか」にかかってくる。特定の個人名を挙げて、なおかつ出自に対する差別的書き込みをした場合はアウト、ということだろう。  また、これは書き込みをする張本人の匿名性は含まれておらず、実名で差別的書き込みを行っても罪には問われない。ただし品性が疑われることは間違いないだろう。 【結論】 一般的な差別的書き込みに対して法的責任を追及するのは難しいが、特定の個人の出自に関する差別的書き込みは罪となる 【CASE2】ツイッターでの犯罪行為告白は罪になるのか?に続く
⇒https://nikkan-spa.jp/309534
<取材・文/エイブリー・ヤス> ― ネット炎上事件の法的解釈は可能か?【1】 ―
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