狂った人妻の伝説的トンデモ映画<河崎実イチオシ>
―[悶絶![トンデモ映画]ベスト42]―
世の中には一般的常識をはるかに超えた映画がある。超大作のはずがトホホな感じだったり、芸術的すぎて意味不明だったり、エログロすぎて正視できなかったり……。そんないろんな意味で“すごい映画”を選者がセレクト。秋の夜長に、ぜひお試しあれ!
【河崎 実】
’58年生まれ。自他ともに認めるB級映画監督。代表作『いかレスラー』『日本以外全部沈没』など。キッズステーションで放送した『それいけ! 電エース』のDVDが発売中
◆莫大な製作費かけてこういう映画を作る勇気がすごいよね
トンデモ映画といえば、橋本忍監督の『幻の湖』ですよ。主人公のソープ嬢が、ある日愛犬を誰かに殺されちゃうの。犯人を追って上京するんだけど、犯人との対決シーンがなぜかマラソン。おまけに回想シーンで、そのソープ嬢がいきなり戦国時代へ飛んだり、ある登場人物はスペースシャトルで宇宙まで行っちゃったり。もう理解不能でしょ(笑)。東宝50周年記念映画だから莫大な製作費かけたのに、一日10人とかの動員数の記録的な不入りで、公開から2週間ほどで打ち切られてるんだよね。
『ウルトラセブン』を作った実相寺昭雄監督の『無常』もいい味出してる。京都の旧家の人間関係とか仏教思想やら近親相姦をテーマに持ち込んで、しかも撮り方がアート。わけわかんないんだけど、昔はAVがなくておっぱい見たいなら映画館行くしかなかったから、これがバカ当たりするわけよ。
それ以上にすごいのはアンジェイ・ズラウスキー監督の『ポゼッション』! もう正直これだけ観ておけばいいってぐらい強烈。夫が単身赴任から帰ると、超美人女優のイザベル・アジャーニ演じる主婦がだんだん狂っていって、それがもう尋常じゃない。浮気相手が仮面ライダーの怪人みたいな気持ち悪い生き物でさ、それとSEXしてんだよ(笑)。ほかにも地下鉄でゲロ吐いて失禁するシーンもあったり、もうAVなんて目じゃないね。これを武井咲みたいな今の日本の若手女優に演じろって言っても絶対やらないでしょ。
それと対照的なのがイングマール・ベルイマン監督の『沈黙』だね。いわゆる芸術映画で一切グロシーンなんかないし、ただただ単調。観てるほうが完全に沈黙するよ。秋の夜長にさっさと眠りたいときに最適の映画だね。『ポゼッション』と『沈黙』は、違った意味で最後まで観れた人はエライと思うな(笑)。
いずれにしてもさ、自主映画じゃないわけじゃない。商業映画として製作費をかき集めて、こういうの作っちゃうっていうのは、何だかんだで監督の実力が認められてるからなんだよ。昔の映画監督ってさ、何億円も使ってアレをやる勇気がすごいんだよね。
最後に『ポゼッション』を何となく念頭に置いて作ったオレの『コアラ課長』も挙げとこうか。日本ではコケて、ゴミだカスだと酷評されたけど、’08年にシドニー映画祭に招待されたときは、コアラが人を殺してるから観客は大爆笑で。単にグロいホラー映画じゃなくて、オレなりに深いものを入れたんだってとこを観てほしいな(笑)。
<河崎 実氏が選んだトンデモ映画>
『ポゼッション』(’81)
監督・脚本/アンジェイ・ズラウスキー、出演/イザベル・アジャーニ、サム・ニールほか
『幻の湖』(’82)
監督・脚本/橋本忍、出演/南條玲子、北大路欣也、隆大介、関根恵子、宮口精二、大滝秀治ほか
『沈黙』(’62)
監督・脚本/イングマール・ベルイマン、出演/イングリッド・チューリンほか。DVDは現在廃盤
『無常』(’70)
監督/実相寺昭雄、脚本/石堂淑朗、音楽/冬木透、出演/田村亮、司美智子、山村弘三ほか
『コアラ課長』(’05)
監督・脚本/河崎実、出演/野村宏伸、エリローズ、破李拳竜、イ・ホ、西城秀樹(特別出演)ほか
― 悶絶![トンデモ映画]ベスト42【2】 ―
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