豚を輪切りにして食べる国は?[世界の屠畜事情]
豚を輪切りにして食べるのはネパールだけ!? イスラム圏では羊をつぶせないと男じゃない!? EUでは自家屠畜が禁止に!?
O111騒動からセシウム騒動と問題が連発し、大打撃を受けている日本の食肉産業。だが、「肉とどう付き合うか」というのはその国の文化を如実に表す。
世界屠畜紀行』(角川書店)発刊イベントを行ったので、その興味深い内容をリポートする。
そもそも内澤氏が、はじめて屠畜の現場を見たのは93年。モンゴルでゲルの組み立て方を取材している最中だったという。ただし、そのときは羊の内臓を洗っている現場をたまたま目撃しただけで、「ああ、こういう世界もあるのか。どうせ見るのなら最初からみたかったな」と思ったぐらいだったという。
その後、内澤氏は羊皮紙の製作風景を取材するためにエチオピアへ。エチオピアは原始キリスト教の国だそうで、偶然にも復活祭の時期だった。40日の断食(肉および魚を食べない。人によっては卵も)を経て復活祭に突入するそうで、ニワトリを日付変更の深夜に、山羊を昼につぶすそうだ。
鶏を主婦がつぶす様子を見学していると、赤ん坊は白目を剥いて啼く様子を見て泣いていたが、5歳ぐらいの子どもは断食明けということもあり、すでに肉の味を覚えているので、鶏が動かなくなるまでかぶせている鍋の上に重し代わりに乗って、うれしそうに踊っていたそうだ。
その後、ネパールで豚を輪切りにして売っていた村人を目撃したり(後にも輪切りで販売している現場を見たのはこのときだけだそうだ)、バリ島でお祭りの前日に豚を潰して祭壇をつくる現場を目撃したりして、「屠畜」という行為に興味を持つようになったという。
お祭りのときに家畜を潰す、というのは各国に共通する風習のようで、イスラム教徒は犠牲祭のときに羊や牛を自宅でつぶすし、ヨーロッパでも古い農事暦では11月が屠畜月となっていて冬越えする家畜の頭数制限と越冬用保存食確保のために豚や羊をつぶしていた。チェコでもつい最近まで、11月に肉屋が農家をまわり、豚をつぶしてたくさんのハムやソーセージ、パテなどを作る祭りがあった。
イスラム圏で自宅で羊をつぶすのは、肉屋が手伝う場合と自分たちでやる場合がある。地域によって異なる。都市部は比較的肉屋頼みだ。ただ肉屋に頼む場合も、家の主人がノドを必ず切るそうで、それが一家の主の仕事らしい。
ただし、自家屠畜は世界的には禁止される方向にあるという。もちろん、理由は感染症防止のため。イスラム圏でも、イスタンブールやドバイでは犠牲祭のときも屠畜場に羊を運んで屠畜してもらうようになっているというし、ドイツ文化圏の肉屋は職人養成学校があるのだが、オーストリアの肉職人学校では屠畜の授業がなくなったという。「屠畜は工場で行うもの」というのが、近代国家の共通認識になっている。
また、インドでは肉食が爆発的に増え、デリーの屠畜場が足りない状態になっており、闇の屠畜業者が増えているという。内澤氏はその工場も取材にいったが、屠体同士が密着し、洗浄もほとんどされないなど、雑菌対策がまったく行われておらず、さすがにここで屠畜した肉は食べたら下すだろうな、と思ったそうだ。その後これらの屠畜場は、デリー郊外に排水浄化施設を併設した最新鋭の規模屠畜場が新しく建設され、移転していったという。
さて、そんな内澤氏だが、現在発売中のSPA!では、「タイ屠犬紀行」と題して、タイ奥地に存在したという犬肉供給村の様子にリポートしている。犬を食べる、という文化は愛護家のみならず一般の人々が反感を持つことが多い。タイはそもそも犬食の習慣が少ないのだが、その犬肉たちはどこへ行くのだろうか……。是非、本誌をご覧いただきたい。
世界各国の屠畜場を取材している作家、内澤旬子氏が去る7月30日、東京・西荻窪の「旅の本屋 のまど」にて、文庫版『
『世界屠畜紀行(文庫文庫)』 「肉」を食べているのに、なぜか考えない「肉になるまで」の営み |
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