センカクモグラを守る会「ゆるキャラ作りたい」
東京でソメイヨシノの満開が報じられた先週末、そんな華やかな喧噪とは遠く離れて、「センカクモグラを守る会」の第3回会合が都内で開かれた。
2010年10月、アルピニストの野口健氏をはじめ、現在、内閣府大臣政務官を務める獣医学士、山際大志郎氏、さらには「モグラ研究の権威」、横畑泰志富山大学准教授らが中心となって立ち上げたこの会は、現在、一触即発の事態にまで発展している尖閣問題に、「環境保護」というまったく別の視点からアプローチしている。
そもそも「センカクモグラ」とは、尖閣諸島魚釣島にのみ棲息する固有種で、最後の上陸調査が行われた1979年時に捕獲された一匹を例にとると、大きさは「頭胴長129.9mm、尾長12mm、後足長16mm、体重42.7kg」。我々が知っている一般的なモグラに比べ吻部が細長く、上下顎の前臼歯の数が3対に減少しているのが特徴で、すでに日本哺乳類学会では「危急種」に、環境省や沖縄県のレッドリストではもっとも絶滅の怖れが高い「絶滅危惧IA」に指定されている。
「魚釣島に灯台を建てた民間団体が1977年に島に持ち込んだ2頭のヤギが、今や少なく見積もっても500頭以上に繁殖し、固有種の宝庫である魚釣島の生態系を壊してしまった。糞尿被害も甚大ですが、元々かつお節工場のあった崖の草木は、この野生化した大量のヤギに食べ尽くされたことで土砂が海に流れ出し、海底のサンゴにも影響するなど深刻な環境破壊が進んでいる。会の名称は『センカクモグラを守る会』としましたが、モグラだけではなく、センカクキラホシカミキリなどの節足動物や、センカクツツジといった固有変種植物等、数多くの生物に影響が出ています」
会の発起人の一人である野口氏がこう嘆くように、今この瞬間も、尖閣諸島の自然環境は、時々刻々と破壊され続けている。当然、一刻も早く上陸調査をしたうえ、ヤギの駆除をはじめ何らかの手立てを打たなければならないわけだが、上陸の許可は日本政府の専権事項。外交上、中国を慮って「平穏かつ安定的な維持管理」をするため長らくこの許可を出さなかったことで、日本固有の財産がみすみす朽ち果てていくのを指を咥えて眺めている状況が続いているのだ。
実は野口氏は、東京都の自然保護を目的とした専門員「都レンジャー」の名誉隊長で、過去に、小笠原諸島の世界遺産登録のため汗を流した立役者の一人。このときも、小笠原にのみ生息する絶滅危惧種に被害を与えていたヤギなど、移入種の駆除をおこなった経験があり、仮に魚釣島の上陸調査が許可されたなら、この都レンジャーとしてのキャリアが大きな強みになることは間違いないだろう。
そして、この日の会合でキーワードとなったのは「海洋保護区」という聞きなれない言葉だった。基調講演で檀上に立った東海大学海洋学部教授の山田吉彦氏が話す。
「海洋保護区という新しい概念を広く伝えていく必要があります。1993年に日本は生物多様性条約を批准しているが、この第8条には『生態系、生息地若しくは種を脅かす外来種の導入を阻止し又はそのような外来種を制御し若しくは撲滅すること』や『現在の利用が生物の多様性の保全及びその構成要素の持続可能な利用と両立するために必要な条件を整えるよう努力すること』と明記されている。つまり、外来種を撲滅して固有種を守ります! と日本は世界に対して宣言しているわけです。にもかかわらず、数多くの固有種がいる尖閣諸島について、生物多様性を保全するような適切な対応が取られていない」
残念ながら、現在の日本に海洋保護区について明確にした法律はない。近隣海域でマグロを網で乱獲するような無謀な操業を中国がおこなっていても、何ら対抗措置を持ちあわせていないのが現状なのだ。
そんななか、野口氏が会合の最後に出した「提案」はユニークなものだと言えよう。
「この会を立ち上げた3年前、『モグラ叩きゲーム』を作っているメーカーの社長から是非とも協力させてもらえませんかと連絡がありました。モグラが主役のゲームというのは日本のオリジナルという話だそうで、その方は『これまでモグラで商売させてもらったので、モグラで恩返しがしたい』と言っておられました(笑)。でも、考えてみると、このゲームしかり、意外に日本人はモグラに愛着があるのではないか? 人気のある動物なんじゃないか? そう思ったんです。そこで、多くの人たちにセンカクモグラの問題を知ってもらうためのひとつの手段として、近い将来、センカクモグラのキャラクターを作りたいと考えています。クマモンのように全身着ぐるみのキャラクターも面白い。まだまだ周知徹底がなされていないこの問題を幅広く訴えていくには、今後こういう新たな試みでアピールしていくことも求められる……」
中国に対し、ただただ『尖閣は日本の領土だ!』と繰り返し主張するのもいいが、「環境保護」の問題として、世界に広く発信していくことのほうが後々日本の国益につながるのではないか。近い将来、キャラクター募集があったら、本誌も募集してみようかという気になる。 <取材・文/山崎元(本誌)>
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