【将棋電王戦第2局】現役プロ棋士敗れる! 将棋会館で何が起きていたか?<その2>
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そうこうするうちに、対局室におやつが運ばれる時間に。この頃になると、いつの間にか人間側が指しやすいという空気はなくなっていた。
「コンピュータが力を出しやすそうな展開になっているかも」(『第2回 将棋電王戦』プロ棋士側中堅・船江恒平五段)
佐藤慎一四段が悪手を指したというわけではないのだが、ねじり合いのなかで「ponanza」側の不安定な形が落ち着き、主導権を握られかけているかもしれないようだ。控え室の検討用の継ぎ盤にも、後手が自信を持てない局面が多く並ぶようになる。
ところが、そのあとの「ponanza」の47手目▲7七金を見て控え室は困惑。さらに61手目▲8七金では「これなら元気が出るかも」という声が上がるようになる。佐藤慎一四段が「ponanza」の手に乗って、うまく体を入れ替えた可能性があるようだ。
「(58手目の)△6二銀が流れを呼び込んだ面白い手だったんじゃないかなあ」(野月浩貴七段@ニコ生解説)
この60手目から10手ほどの間に、ニコニコ生放送の「ボンクラーズ」の評価関数の数値も、佐藤慎一四段の優勢を示すようになった。一進一退の中盤戦を、頭ひとつ抜け出したか。実のところ「ponanza」も、この60~70手以降、ずっと自分の劣勢と評価していたようだ。
「これで行けるはずと『ponanza』が指した手が、もっと読み進めていくとダメということのくり返しで。明らかに読み負けてるんですよ。プロは本当に強い」(「ponanza」開発者・山本一成氏)
ここから終盤にかけて、佐藤慎一四段が「ponanza」の攻めをしのぎ、優勢を維持しながらチャンスをうかがう、じりじりとした展開に。
「あ、攻め合うんだ。もうちょっと受けに回るかなと思ったけど、(佐藤慎一四段)らしいなあ」(遠山雄亮五段)
将棋では、終盤で優勢なら、覚悟を決めて踏み込まなければいけないという瞬間が必ず訪れる。そして、攻めに転じるタイミングが早いか遅いかは、その棋士が「攻めの棋風」か「受けの棋風」かにもよる。もちろん踏み込んで負けてしまうこともあるのだが、そこから最後まで自分の直観と読みを信じられるかどうか。
結果的に、どちらに転ぶかわからない終盤戦の明暗を分けたのは、コンピュータならではの「迷いのなさ」だったのではないか。終局後の佐藤慎一四段のコメントからも、そのことがうかがえた。
「自分が良い局面はあったと思います。途中で急に手が見えなくなって。もう少し面倒を見るなら見るで、方針をしっかり1つに決めていれば……。しかし、結果を受け止めます」(佐藤慎一四段)
攻め合いを挑んだかと思われた佐藤慎一四段だったが、ためらいなく指し続ける「ponanza」の攻めを受けているうちに、残り時間も逆転。継ぎ盤を動かすプロ棋士たちの手も止まる。「ボンクラーズ」の数値が、たった2手の間に662点、1003点と跳ね上がる。500点を超えると優勢、1000点を超えれば勝勢だ。ギリギリの終盤では、勝負はあっという間に決まってしまう。
20時3分、残り時間がちょうど1分になるところで、佐藤慎一四段が投了。『第2回 将棋電王戦』第2局は、「ponanza」が大熱戦を制し、コンピュータ将棋ソフトとして、現役のプロ棋士に対する歴史的な初勝利を収めた。
⇒【その3】当事者+次戦の船江恒平五段が振り返る第2局
https://nikkan-spa.jp/414669
◆将棋ウォーズ
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◆ 第2回将棋電王戦 特設ページ
http://ex.nicovideo.jp/denousen2013/
<取材・文・撮影/坂本寛 撮影/林健太>
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