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【将棋電王戦第2局】現役プロ棋士敗れる! 将棋会館で何が起きていたか?

将棋電王戦第2局

終局直後の佐藤慎一四段

 3月30日、将棋のプロ棋士5人と5つのコンピュータ将棋ソフトが対決する『第2回 将棋電王戦』の第2局が、東京・千駄ヶ谷の将棋会館で行われた。次鋒戦は「将棋界の逆境アーティスト」佐藤慎一四段と、昨年の『世界コンピュータ将棋選手権』で4位(42チーム中)となった「ponanza(ぽなんざ)」の対決だ。  3月23日の第1局(https://nikkan-spa.jp/409911)は、若干18歳の新鋭・阿部光瑠(こうる)四段が1秒間に千数百万手を読むという「習甦(しゅうそ)」に完勝。あらためて現役プロ棋士の強さが際立った先鋒戦となった。しかし、その結果を受けても、第2局はプロ棋士側の苦戦を予想する関係者やファンの声が少なくなかった。それはなぜか。  まず第1局では、阿部光瑠四段には対局の3か月ほど前から本番に近いバージョンの「習甦」が貸し出されており、練習対局のなかで「習甦」の指し手の特徴やクセを把握できていたのが勝因の1つとなった。一方で「ponanza」は、開発者・山本一成氏の勝負にこだわる方針により貸し出しはナシ。代わりに貸し出された「ツツカナ」(第3局に登場予定)での練習は可能だったとはいえ、これはかなり大きな違いである。 「僕はとにかく勝ちたいですね! プロ棋士だけじゃなく、ほかの将棋ソフトにも(笑)」(「ponanza」開発者・山本一成氏) 「開発者によって、コンピュータ将棋ソフトの開発の目的や方針は全然違うんです。勝ちたいという人も、研究対象としての興味が強い人もいる。『GPS将棋』は6人の共同開発ですが、そのなかでもみんな違いますからね」(「GPS将棋」開発者・東京大学准教授 田中哲朗氏)  また、NECビッグローブ株式会社から貸与された8台のXeonサーバを含む合計10台のコンピュータで本番に臨んだ「ponanza」のマシン構成は、大将戦に登場予定の「GPS将棋」の670台に次ぐ規模である。単純な処理速度的にはかなり上位であることが予想された。次鋒とはいえ、副将の「Puella α」や中堅の「ツツカナ」との差はほとんどない、あるいは本番環境では上回っている可能性もある。  さらに山本氏は東大将棋部出身で、将棋ソフト開発者のなかでは随一の棋力を誇る。一般的に将棋ソフトの強さは必ずしも開発者の棋力とは比例しないのだが、コンピュータの弱点とされる序盤の方針をあらかじめ設定しておけば、人間相手の一発勝負ではアドバンテージになるのではないか。しかも、第2局の「ponanza」は、戦術的な主導権を握りやすい先手番だ。  ただし、第1局の控え室に姿をあらわした山本氏の話では、そう簡単な話ではないこともうかがえた。 「サーバを多くしても、なかなか単純に強くなってはくれないんですよ。今回の4時間っていう持ち時間も、コンピュータ同士ではあまりない長時間でデータも取りにくいし、1手に何分使う設定がいいのか難しいし。あと1分未満の考慮は切り捨てるルールですけど、ギリギリ59秒まで考えさせるとトラブルの不安があるし。あと1週間で間に合うのかなあ」(「ponanza」開発者・山本一成氏)  そして当日。「ponanza」は序盤早々から定跡を外れた形に突き進んでいき、控え室のプロ棋士たちは一様に首をひねる。しかも、1手に10分以上も使いながらである。あまりに時間がかかっていたため、トラブルを心配する声もあがるほどであった。 「おかしいよ。普通は序盤にこんなに時間はかからないはず。何かトラブルが起きてるか、特殊な設定をしているのか」(勝又清和六段)  対局の進行を懸念した立会人の勝又清和六段が、控え室と特別対局室を足繁く行き来する。結局のところ、その両方が起きていたようだ。山本氏が、あきれたような表情で控え室に姿を表した。 「3手目までは指定して、あとは定跡データベースを切って、1手最大25分までの設定で。あとは好きなように指せばいいよってやったら、いろんな手をムダに考えすぎちゃったり。サーバは問題なく動いてるけど、モニター用の通信が切れちゃったり。いやあ、ひどい」(「ponanza」開発者・山本一成氏)
31手目▲1五歩

31手目▲1五歩の局面図。終局後、佐藤慎一四段はこの局面で端歩を詰められたことを序盤のミスだったとしていた。:日本将棋連盟モバイル(http://www.shogi.or.jp/mobile/)より

 第1局の「習甦」が完敗した角換わり系の戦型を避けたり、プロの定跡研究の罠にハマらないよう山本氏が講じた作戦だったようだが、この時点では、すべてが裏目に出ているように見えた。午前の対局が終わった段階で、考慮時間も「ponanza」のほうが1時間以上も多く使っている。午後に入ってからも、「ponanza」の王様は実に危なっかしい場所に引っぱり出されているのに、何食わぬ顔をしている。コンピュータだから当たり前ではあるのだが。 「人間だったら、怖いからとりあえず王様を引っ込めてから考えるよねえ。(序盤で人間側が)ポイントを上げたことは間違いないです」(先崎学八段@ニコ生解説)  ただ、具体的に大きな差がついたというわけではない。第1局の△6五桂の局面に比べれば、はるかに微差である。 ⇒【その2】に続く「コンピュータが力を出しやすそうな展開に……」 https://nikkan-spa.jp/414668 ◆佐藤慎一四段 vs ponanza PV – ニコニコ動画:Q http://www.nicovideo.jp/watch/1363954072 ◆ 第2回将棋電王戦 特設ページ http://ex.nicovideo.jp/denousen2013/ <取材・文・撮影/坂本寛 撮影/林健太>
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