原発事故収束を担う被曝労働者の「劣悪な環境」
4/23発売の週刊SPA!特集記事「福島第一原発は今これだけ混乱している!」では、事故処理現場の最前線にいる作業員が座談会形式で苦悩を吐露している。
日刊SPA!では、本誌座談会に登場しなかった声を紹介しよう。
労働組合や医師等と連帯して被曝労働者の労働争議を行う“被ばく労働を考えるネットワーク”(http://www.hibakurodo.net/)のなすびさん(40代男性)はこう語る。
「20人ほどの福島の事故収束作業員から問合せがありました。“雇用契約書”もなく、口約束や賃金未払いも多く、親方からの暴力は日常的。そのほか“線量隠し”の横行、危険手当なし、日当1万円以下といった、一般の企業ではありえない労働現場です。今まで多くの労働者は恐怖に萎縮して、声をあげる力すら奪われてきました。双葉や富岡はもともと炭坑の町で、長年搾取される構造があったからこそ、原発が建てられたという経緯もあります。住み込みで行う現在の原発収束作業では、クビになった次の日からホームレス、失業手当も出ず無収入となるケースが多い。声をあげる事でもう仕事が来なくなるデメリットもあるなか、4人が私たちのネットワークとともに争議を行っています」
その中には「福島第一原発の現場親方から高額な車をムリヤリ売りつけられ、断ろうとすると解約金3割を要求される」「仕事を辞めたいが、親戚や家族に脅迫等の迷惑がかかるのが怖くて辞められない」といった理不尽なケースもあるという。
福島第一原発では、2年間で2万6308人が収束作業を行った。最も累積被曝線量が多かった労働者は678ミリシーベルト。100ミリシーベルトを超えた労働者は134人(東電社員、協力企業含む/東京電力発表)と、通常の原発労働に比べて圧倒的に被爆線量が高い。筆者が取材した被曝労働者は、雇用保険もなく国民健康保険を払う余裕のない労働者が多かったが、今後被曝による健康被害がおこる可能性はないのだろうか?
「残念ながら健康被害は避けられない」と警告するのは、長年被曝労働者の診察や聞き取り調査を行ってきた村田三郎医師(阪南中央病院副医院長)だ。「今まで40年間、40万人の労働者のうち11人が労災認定されていますが、そのうち9人は100ミリシーベルト以下で発病しています。現在の年間50ミリシーベルト、5年で100ミリシーベルトという被曝上限は高すぎる。私は1980年代に100人以上の原発労働者を診察しましたが、多くの方がだるさ、頭痛、めまいなど“原爆ぶらぶら病”に類似した症状で就労できなくなっていました。収束作業労働者の方々も今後白血病だけではなく、肺がんやさまざまなガン、骨髄腫、心臓疾患等様々な病気になる可能性があります」(村田医師)
今まで労災申請が認められた11人のうち、生存中に認められたのはたった1人しかいない。福島第一原発でも働いた熟練作業員で、悪性リンパ腫を発病した長尾光明さんだ。長尾さん本人が多くの反原発運動団体に救援を依頼し、診察を担当した村田三郎医師らが英語やロシア語の文献を翻訳し資料として提出した。本人と周囲の人々による血のにじむような努力のもと、やっとのことで勝ち取った労災認定だった。
チェルノブイリ事故後のウクライナやベラルーシでは、収束作業員(リクビダートル)は「国家によって因果関係がないことを証明できるケース以外は」発病後も生涯にわたって生活費支援や医療保障を受けられることが定められている。ところが、日本の場合は労働者が資料を集めるなどして必死に訴えても、認められるケースはほとんどない。
事故収束は日本の最優先課題。労働者が安心して働くことができ、優秀な人材が集まるような環境にしなければならない。原発再稼働に資金と人員をかける前に、福島第一原発にこそ注力しなければ収束は難しいのではないだろうか。 <取材・文・撮影/増山麗奈 写真/志葉玲>
これまで原発で働く被曝労働者の姿が一般に知られることは少なかった。しかし最近、福島第一原発の事故収束作業を行う労働者たちが少しずつ声をあげ始め、秘密のベールに隠されていた被曝労働の実態が公になりつつある。
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