大炎上ブログ「ちはるの森」のちはる氏が女性猟師になった理由【後編】
―[大炎上ブログ「ちはるの森」]―
「ちはるの森」という個人ブログをご存知だろうか? 自らを「暮らしかた冒険家」と称するちはる氏という女性が開設しているブログで、そこに並ぶ記事のタイトルは、「今年も普通の女子が鴨を絞めて、お雑煮にしたよ。」「うさぎはかわいい味がした。うさぎ狩りと解体してきたよ。」といった具合。鶏、鴨、猪にうさぎなどを解体し、調理していく様子を写真とともにリポートしている記事が多いのだが、動物を絶命させていく過程の写真や、解体の際に当然出る血なども掲載しており、はっきり言って「閲覧注意」なブログだ。
現在アップされている記事には「一部生々しい写真が掲載されています」といった注意書きがなされているが、この表現方法、さらには動物の解体を見せるという行為自体に対して、コメント欄は賛否が真っ二つに分かれた意見で大炎上している。ちはる氏は2013年1月に狩猟免許も取得。新人猟師としての活動から、そしてブログの炎上についてまで、「水曜日のカンパネラ」のコムアイ氏とともにたっぷりと話を聞いた。
⇒【前編】「新米猟師・ちはるの日常」はコチラ
◆ブログの炎上を本人はどう見ているのか?
――あと、ブログのこともお伺いしたいんですが、ちはるさんのブログって炎上するじゃないですか(笑)。
ちはる:はい(笑)。
――コメント欄の意見を分析してみると、「笑顔で解体している写真」に対して強い拒否反応があるんです。その気持ちもわからないではないのですが、ちはるさんは解体の現場を写真で全部をさらけ出すじゃないですか。それはやはり、覚悟を決めてらっしゃるということですよね?
ちはる:そうですね……。というより、そもそもこのブログがこんなにたくさんの人に読まれることになるとは思っていなかったので正直驚きました。私としては、狩猟や解体に興味がある人の役に立てればと思って写真を細かく掲載しているんです。それは、私自身がブログやYouTubeで解体や狩りの情報を集められたからということもあります。先輩猟師たちが情報を公開してくれたおかげで今こうして活動できているので、私もこれから何か始めようとしている人へ繋げていければと思って。でも、ブログは不特定多数の方が見る場所なので、表現が直接的すぎたかなとは反省しました。でも、これだけ肉食文化が浸透しているなかで、肉を捌いて食べるということは決して特別ではないし、スーパーで売っている肉の向こう側には必ず捌いてくれている人がいるんだと思うんです。そういう場面を知らずに、捌くのだけを誰かにやってもらって、自分は食べるだけといのはなんだかバランス悪いなと感じています。こういうテーマがもっと身近にオープンに、みんなが語れるテーマになってほしいな、というのが私の気持ちなんです。だから、特別な人がやってるわけじゃなくて普通の人がやってるよ!と伝えたくてタイトルに「普通の女子が鴨を捌いて~」と書いたんですけど、「いや、君は普通じゃない」ってツッコミがすごく来てしまって、「あ、伝わらなかったんだ」ってなっちゃったんですけど(笑)。伝え方を間違えたのかもしれないです。難しいですね。
――なるほど。
ちはる:でも、狩りや解体というのは私みたいに全然筋肉のない、しかも根性のない人でもできることだし、そういうことで、狩りや動物がさばかれて食べられていくっていうことのハードルを下げたいっていうのがあって。昔は軒先とかで鶏絞めていましたし、もっと暮らしの近くにあったことだと思うんです。あと、狩りといえば「マタギ」のイメージがあって、みんな無言で真面目で笑わずに真剣に……って思っている人多いと思うんです。もちろんそうだとは思うんですけど……。
コムアイ:でも、食べるのは楽しいしね。食べるものをつくるときは楽しいのは当たり前だからね。笑っちゃうのも自然なことではあるよね。
ちはる:うん。そこで笑顔が出たからといって、命に対する敬意がないかどうかっていったら、違うんじゃないかなと思っていて。命に対する敬意というのは、その人の暮らしの中からにじみ出すものであって、一部だけで判断することはできないんじゃないかなっていう気持ちがあります。狩りや動物を絞めて食べることっていうのは、人間の営みのひとつなわけで、決して、真面目なことがずっと続くわけではないわけじゃないですか。もっと人間らしいものだと思っているんです。だからたまにはマヌケなこともあるし、笑っちゃう楽しいこともあるし、ときには残酷なこともあるし。でも、それは山の中で自分が生きていくために仕方がないことだったりもするし、そういうことが伝わらなくて、「笑顔」という一部分だけバーッと広まっちゃうと、誤解されるなあ、というのを自分のブログでわかりました(笑)。
――もうブログが炎上することは平気になったんですか?
ちはる:えー。でも……まあ、コムアイちゃんはどうなの? ライブハウスで解体とか、なんか大変そうだなって思っているんだけど。
コムアイ:えーと、私はちはるちゃんと同じ気持ちのところと、違うところがあって。同じなのは解体に対してハードルを下げたいっていうところからスタートしているところ。でも、私は狩りや解体というのは特別なことだと思っていて。普通に山で暮らしている人は普通のことなのかもしれないけど、東京で食べている側からのスタンスでいたい、という気持ちがずっとあるの。で、なんか、やっぱり普通じゃないと思うのね。佐野さんとかは当たり前だからっていうけど、私からしたら、かわいい獣がだんだんと食べ物になっていくところに、毎回、毎回、不思議な感じを覚えるっていうか。かわいくて、かわいそうで、でもおいしいみたいな。なんかこう、その感情は不思議なものだと思うの。ほかではない感情だから。そういうのって、不思議だけど面白くないですかっていう感じで見せていきたいのね。
ちはる:そうだね。東京の人の感覚を持ちながらっていうスタンスは大事な気がする。そこから伝えられること、いっぱいあると思うし。でも、私は獣に対してかわいそうって思うほどの余裕はないかも。なんかねぇ、わからないけど、家畜とか自分が手塩にかけて育てた動物を殺すときはかわいそうっていうか、すごく……うまく説明できない感情になる。でも、やっぱり狩りをするときは、お互い死ぬ気でやるから。とどめを刺すときって、向こうも必死なのでこっちも必死でいかないと危ない。そこはかわいそうというよりは怖さのほうが大きいかな。
コムアイ:猟師さんはそう言うね。
ちはる:とにかくちゃんととどめを刺せて「ホッ」みたいな。私が一番大事にしてるのは、獲物をできるだけ苦しめないこと。もちろん、自分も攻撃されないようにすることは大事ですけど、一番つらいのはちゃんととどめを刺せなかったときとかかな。
コムアイ:罠にかかったまま数日いさせちゃったときとか?
ちはる:毎日見回りをするからそれはないけど、とどめ刺しがうまくいかないときとか。
コムアイ:あー、のたうち回ったりとか。血を流しながらまだ生きてるみたいな。
ちはる:まだ生きてるとか。そういうときが一番つらいし、自分が未熟だな、と思う瞬間ですね。
――一方、自分で飼っている家畜というか、鶏とかを絞めるときはどういう感情になるのか、詳しくお聞きしてもいいですか?
ちはる:えー。ちょっとまだわからないです。この1月の前半にヒナから育てた烏骨鶏を絞めたんですけど……。最終的に食べるために育てていたので、ずっとそういう気持ちを育んではいたんですけど、なんかやっぱり、いつものように「今日もエサくれるんでしょう」みたいな感じで来たところを捕まえて絞めてしまうので。それに対する気持ちの折り合いの付け方っていうのはどうしたらいいのかまだわからないですね。
コムアイ:就農体験で養鶏所の世話をしていたとき、卵を食べるのもいやだったもん。
――まだ狩猟や家畜を絞める、というのは日常生活の一部ではない、という感じなのでしょうか?
ちはる:うーん、今となってはけっこう日常になってきたと思います(笑)。家では自分で解体した以外のお肉は食べない暮らしをしているので。
――普段は、菜食主義……というのもおかしいですが、お肉を食べないんでしたっけ?
ちはる:そうです。そんなに厳しく決めているわけではないですが、普段はお肉を食べない暮らしをしています。
――冬だけ食べるんですか?
ちはる:やっぱり寒くなるので。肉があったほうが体があったまるし、猪は体が芯から温まるんですよ。自分で狩りができるようになるまでは、お肉を食べるのが自分の身の丈に合わないな、ってずっと思っていたんです。大きい猪とか1人で捌くのは何時間もかかるし、牛とか豚ってもっと大きいじゃないですか。自分で解体できないものをたくさん食べるのってバランス悪いなってずっと思っていて……。でも少しずつ山に入って自分で猪を獲れるようになって、自分のできる範囲が増えてきたから、お肉も少しずつ食べれるようになったし、そういうところに対する気持ちはだいぶ解放されたような気持ちです。
<写真提供/雨宮透貴 取材・文/織田曜一郎(本誌)>
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著者:畠山千春
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発行元:木楽舎
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3.義経
4.モスラ
5.ラオウ
6.ダ・ヴィンチ
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