新婚旅行で世界一周するという人たちが心配【高野秀行×丸山ゴンザレス“旅の達人”対談】Vol.2
―[高野秀行☓丸山ゴンザレス対談]―
行楽シーズン、ゴールデンウィークが迫ってきた。海外旅行に行く人はそろそろ最終予約が迫っている時期だろう。ただし外国では予想外のハプニングやトラブルに見舞われたり、反対に海外旅行だからこそ起きる笑ってしまう珍事もある。
そんな経験を積み重ねてきた旅の達人が、過去から現在までの体験談や昨今の旅事情を語り合った。
『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞を受賞した高野秀行氏、そしてインタビュアーは、犯罪ジャーナリストとして国内外のトラブルを追い続ける丸山ゴンザレス氏。トラブルを回避して、春の旅を何倍も楽しむポイントとは?
●Vol.1「海外で日本人に会いたくない」⇒https://nikkan-spa.jp/612446 ●Vol.3「サッカー選手の名前さえ知ってれば国際交流できる」⇒https://nikkan-spa.jp/613375 ◆「ウユニ塩湖なう」が多すぎる! 丸山:最近だと新婚旅行で世界一周をするという人たちもいますが、勝手に心配になりますよね。 高野:それって超無謀な話だよね。でも、その前に丸山くんが言うと本当余計なお世話だよね(笑) 丸山:僕のねじ曲がった性格が出てしまっているんですけど(笑)。仕事のリサーチで、いろいろな世界一周している人のブログをよく読むのですが、「離婚しました」と事後報告しているのをちょこちょこ見るようになって。あんなに楽しそうに旅していたのにと思ったら、「実は後半から破綻していて」みたいなことが書いてあったんですよ。 高野:俺も勝手な心配をどんどんするけどさ、途中まではうまくいっていたのに、それだと旅の記憶がすべて真っ黒になるわけだよね。 丸山:写真とかで旅の思い出を振り返ってみたくないわけじゃないですか。嫌じゃないのかなと思ってしまいますよね。 高野:新婚で一緒にいるのが楽しいのと現地で楽しいのは本来別だから。それが一緒くたになって、楽しかった外国の思い出も真っ黒になるのは悲惨な話だね。 丸山:そうなんですけど、特に世界一周だと期間も長いし本人にとっても特別な思い出ですよね。 高野:よせばいいのにって思うんだよ。でも、本当に余計なお世話なんだって(笑)。 丸山:旅ブログなんかを書く人も多いと思うんですが、実は旅ブログを始めたが旅中の更新も面倒だし、帰国したら触ってもいないという人は意外に多いんですよね。 高野:そんな旅のブログがたくさんあるっていうのを初めて知ったんだけど。 丸山:情報を集めようと思って行く国のブログで検索するといっぱい出てくるんですけど、出国と帰国でだいたい終わっていて間のエントリーがないブログは結構多いですよ。 高野:それは飽きちゃうの? 丸山:飽きちゃうみたいですね。更新しない人がすごく多いので。しかも何年か前に書いたきり更新されていないとか。人気旅ブログは細かく情報をアップしているので、人気になるだけの理由があるなと思いました。高野さんはブログで旅情報を発信されないですよね。 高野:だって発信する旅情報がないから。 丸山:そもそも高野さんに「ソマリランドに行くお得なチケット見つけました」とかの情報発信を期待してないかもしれませんよね。 高野:俺に旅情報を聞くのが間違っている(笑)とにかく、旅情報はわからないよね。この前に角幡唯介(ノンフィクション作家、早大探検部OB)と対談していて「やっぱり『地球の歩き方』は手放せない」って言ってたんだよね。みんなそうなんだと思うよ。 丸山:角幡さんもそうなんですか。意外すぎですね。 高野:「やっぱそうだよな」「そりゃそうなんですよ」って話になった。俺たちはガイドブックのその先に行きたいわけだから、町のことなんて何も知らないしあんまり興味ないんだよ。あと便利だし、『地球の歩き方』。 丸山:便利ですよね。やっぱりあの本を越えられないというか、あれでいいかなって思いますね。 高野:全然いいよ。 丸山:高野さんや角幡さんの作品をすごいなーと思って読んでいたので、その2人が「『地球の歩き方』いいよね」という話をしていたのが新鮮ですよ。ほかには、普段どんな話をされているんですか? 高野:基本、あんまり話合わないよね(笑)ただ、この前は資料をどうやって集めているのか聞いたんだけど「Amazonです。Amazonでおすすめされるから」ってお互いに言ってた(笑)。 丸山:高野さんもAmazonは利用されるんですね。僕らからすると高野さんはレジェンドクラスの人たちとして位置づけられているから、編集者が資料を持ってきてくれるのかなとか思っちゃうんですけど。 高野:そんなことないから。Amazonは本当に俺のことをよく知ってるんだよ(笑)ビックリしちゃうよね。おすすめしてくるのが本当にツボを押さえていて、よくわかってるなーって。実際の本屋には俺の読みたい本がないんだもの。 丸山:ちなみに海外に行くときは本を持っていきますか? 高野:うん。昔から資料とは別に読む本を5冊上限でと決めていたんだけど、一回本を読みたいとすごく思って、30冊持っていったらすんげー重くて。あまりに重かったからバンコクで友達に25冊くらい預かってもらった(笑)。 丸山:5冊上限で、持っていった本がハズレだったらどうするんですか? 高野:そう思うからいろいろ持って行きたくなる(笑)日本にいるときと現地にいるときでは気分も違うから、どんな本を持っていけばいいのかわからない。日本では読めないような真面目な文学とか哲学本を持って行ったほうがいいのかなと思って持って行っても、やっぱり読まないで帰ってくることが多いし。唯一読めたのが、ウモッカを探しにインドに行って捕まって拘束されたとき。滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』を原文で読んですごく面白かった。 丸山:話を旅とネットに戻して再度伺っていきたいのですが、最近「ウユニ塩湖なう」が多過ぎないかというのが私の周りで話題になることがあるんですよ。 高野:「ウユニ塩湖なう」って何のこと? 丸山:世界一周チケットのルートとして、ボリビアのウユニ塩湖とスペインのトマト祭は定番コースなんです。太平洋と大西洋を一回ずつ移動するのが世界一周の定義らしくて。ユーラシア大陸をどれだけぐるぐる回って旅していても、太平洋と大西洋をひとつなぎで移動して日本に帰国しないと世界一周旅行者としてカウントされないそうなので。 高野:くだらないね(笑)それで何でウユニと、あとトマト祭なの? 丸山:世界の絶景の本に取り上げられたのと、行きづらい場所というのもあるみたいです。高野さんはこれ全然わからなかったですか? 高野:ウユニ塩湖は知ってるけど、「多すぎる」っていうのは。 丸山:ブログやTwitterやFacebookやインスタグラムでその手の投稿がすごく多くて。知り合いの旅ベテランの女性編集者と話しをしていたら「最近「ウユニ塩湖なう」が多すぎない?」って言われて。「あそこ電波入らないから「なう」なんてできないのよ!絶対宿に帰ってからアップしてるのに「なう」ってなによ!」ってすっごい怒っていて(笑)あくまで主観なんで、本当に多すぎるのかどうかはわかりませんけどね。 ●Vol.3「サッカー選手の名前さえ知ってれば国際交流できる」続く⇒https://nikkan-spa.jp/613375 【高野秀行】 1966年生まれ。ノンフィクション作家。 早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。1992-93年にはタイ国立チェンマイ大学日本語科で、2008-09年には上智大学外国語学部で、それぞれ講師を務める。『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)、『未来国家ブータン』(集英社)など著書多数。 【丸山ゴンザレス】 1977年生まれ。犯罪ジャーナリスト、旅行作家、編集者。 海外の文化、歴史、危険地帯に造詣が深く、アジアやアフリカを中心に取材旅行を定期的に行い、雑誌や書籍などに旅行記を発表している。また合法・非合法にかかわらず潜入取材を得意とし、裏社会に関する著作を、「丸山佑介」の名義で発表している。著書に『アジア罰当たり旅行』(彩図社)、『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)など多数。
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