サッカー選手の名前さえ知ってれば国際交流できる【高野秀行×丸山ゴンザレス“旅の達人”対談】Vol.3
―[高野秀行☓丸山ゴンザレス対談]―
行楽シーズン、ゴールデンウィークが迫ってきた。海外旅行に行く人はそろそろ最終予約が迫っている時期だろう。ただし外国では予想外のハプニングやトラブルに見舞われたり、反対に海外旅行だからこそ起きる笑ってしまう珍事もある。
そんな経験を積み重ねてきた旅の達人が、過去から現在までの体験談や昨今の旅事情を語り合った。
『謎の独立国家ソマリランド』で講談社ノンフィクション賞を受賞した高野秀行氏、そしてインタビュアーは、犯罪ジャーナリストとして国内外のトラブルを追い続ける丸山ゴンザレス氏。トラブルを回避して、春の旅を何倍も楽しむポイントとは?
●Vol.1「海外で日本人に会いたくない」⇒https://nikkan-spa.jp/612446 ●Vol.2「新婚旅行で世界一周するという人たちが心配」
⇒https://nikkan-spa.jp/613374 ◆海外の迷惑な親切からみた外国人とのコミュニケーション 丸山:「親切」な案内を信じた結果、思いっきり道に迷ってしまうときって、そもそも教えてくれた人がその場所を知らないってことありますよね。 高野:それはもうあるあるどころじゃなくて常時だよ。 丸山:途中から間違っているかなとか思うんですけど、親切って断れないじゃないですか。 高野:海外旅行のなかに込みなんだよ。「親切な人に案内されて道に迷う」っていうのは。 丸山:日本に来た外国人に道を聞かれることとかありますか? 高野:あんまりわからないしね、道を聞かれても。いまはネットがあってスマホで検索するとか方法があるけど、ないときってわからないじゃん。日本だとストリートで説明できないし。 丸山:ストリートがあればとりあえずここのどことか言えますよね。 高野:あと逆パターンで外国人に「東京でいい宿教えてほしい」と言われても困るよね。だって自分が泊まらないから知らないもん。でもよくよく考えると俺は外国でよくやっていて、地元の人に「このへんにいい宿ないか」って聞いて「よくわからない」と言われたり、全然よくない宿に連れて行かれたりしていたんだけど。考えてみたら地元の人にいい宿なんか聞いてもしょうがないよね(笑) 丸山:確かにそうですね。東京で朝まで飲むことはあっても泊まることはない。だから地元の宿なんてしらないのに、自分も海外いくと地元の人に全く同じことを聞いてしまっています。 ◆世界の共通語は「サッカー」!? 丸山:コミュニケーションといえば、必ず言葉の問題が出てくるじゃないですか。実際、私なんかも海外にいるときは英語勉強する気満々なのに帰国するとどうでもよくなるというのはよくあることなんですよ。でも、高野さんは英語だけじゃなくてマイナー言語も多いじゃないですか。 高野:マイナー言語ばかりやっているから、英語の勉強はしたことなくて。でも海外行くと英語って必要でしょ。行ってしばらくうろうろして、1ヶ月くらい経って帰る頃にはさすがに英語能力はアップしているわけだよ。そうすると、このまま継続的に勉強していればどんどん上手くなるに違いないと思って、やろうと思うんだけど絶対やらないんだよね(笑) 丸山:高野さんでもやっぱりそういうのあるんですね。英語はもはやベースで普通に扱っているのかなと勝手に思っていたんですけど。 高野:そんなことないです。 丸山:僕らから見ると語学の才能が突出しているように見えるんですよ。旅好きの連中と話していて高野さんの話題になると「あの人ってすごいよね。語学の才能がずば抜けているよね」って話になる。 高野:語学というのはコップの水みたいなもので、他のものを入れると前に入った言語は出ちゃうんだよね。 丸山:それは複数言語を習得していないとなかなかないですけど。昔覚えた言葉で忘れてしまったものもあるんですか? 高野:忘れちゃっているね。ものすごく勉強しているはずなんだけどね。いまはソマリ語を頑張ってやっているけど、ちょっと使っていないとどんどん忘れていく。 丸山:ものすごい数のマイナー言語を全部操っているというイメージでした。 高野:英語はよくあるなと思った。 丸山:言葉とは別に外国人とコミュニケーションをとるとき、共通認識を話題として持ち出すのが早いのかなと思っていて、例えば若い人にはアニメの話とか。 高野:サッカー好きな人はすごくうらやましい。サッカーの話題は世界中どこにいっても使えるから。特に第三世界はほぼどこにいってもOK。 丸山:サッカー……この本(『海外あるある』)にひとつも入ってないですね。いま言われてそうかと思いました。 高野:中田とか最近は本田でしょ。中田、本田、中村、稲本のようなワールドカップで活躍した選手の名前。 丸山:アフリカでヨーロッパで活躍しているアフリカの選手の名前を一人でも出せれば盛り上がるんだろうな。サッカーか。すごくデカい壁が出ましたね。 高野:イランに行ったとき英語が全然通じなくて、アリ・ダエイという昔日本が戦って苦戦させられたFWの選手の名前を出したらみんなの顔がパッと輝いて。 丸山:サッカーすげぇ! 高野:サッカーはすごいよ。名前だけでOKだからね。いつも英語と同じように「日本に帰ったら世界の共通言語のひとつとしてサッカーを観よう」と思うんだけど、帰るとどうでもよくなっちゃう(笑) 丸山:まあそうですよね。日本に帰ったらどうでもいいですよね(笑)でも全然思いつかなかったです。若くてチャラいやつがサッカーの話題で打ち解けていく場面は見るんですよ。 高野:それこそあるあるだよね。英語よりサッカーのほうが緊急の課題だね。 ◆ソマリランド!? 幻獣!? 達人ならではの海外旅行の目的 丸山:旅を終えての帰国の段階についてお聞きしたいのですが、高野さんお土産は買うんですか? 高野:買いますよたまには。でも面倒くさいから空港で済ませる。空港にはクオリティの高いものが揃っているし、現地で民族衣装とか食品とか選んでも相手は全然喜んでくれないということがわかったわけ。空港で買ったものが一番喜ばれる。 丸山:確かにクオリティ高いですよね。 高野:一般的な日本人が受け入れやすいものしか置いていないしね。 丸山:日本の空港に着いた時だと、私なんかはサンダルで出発して現地でも履きやすくて最高と思って帰国すると冬だったなんてことがあるんですよ。そんな自分がカッコイイと思っていた痛い時期もあったわけなんですけどね。 高野:俺の場合、日本でも草履だったから(笑) 丸山:さすがですね(笑)帰国ついでに聞きたいのは、帰りの交通費は考えていましたか? 高野:20代の頃は毎回帰るたびに途中で金がなくなっていて、誰かに借りて帰ってたよ。酷いときは香港で日本人がよく利用する旅行会社で張って、そこに来た人と仲良くなって金を借りたりしてた。 丸山:(爆笑)ひどい!高野さんの話は何歩か手前では「あるある」と共感できるのですが、そのあとに出てくるエピソードがやっぱり突飛すぎます(笑)。とりあえず無事に帰国してから気になるのということでいえば、パスポートのスタンプが増えると純粋に嬉しい時期っていうのがありました。時々、パスポートのスタンプを見直すことあるんですよ。高野さんにはそんなことはありますか? 高野:ほとんどない。とにかくそれは早くなくなってほしいと思っているから。そりゃあ昔はちょっと嬉しかったことはあったけど、どこ行ったって変な顔されるだけでしょ。イランとかアフガニスタンとか(笑)もう面倒くさいわけ。特に先進国に入国するとき。 丸山:それは確かにありますね。パスポートの有効期限は5年、10年のどちら派ですか? 高野:絶対5年。もし2年パスポートがあったら使いたいくらい。 丸山:いまは顔認証で履歴が出るシステムに変わってきているじゃないですか。アナログだったらごまかせたけど、全世界で自分の情報が共有されるようになったのはちょっと嫌だなと感じます。 高野:よくないね。「何しにそこに行ったんだ」って全然違う国で言われるもんね。関係ないじゃん(笑)あとロンドンのヒースロー空港でおばちゃんの係員に「これからどこ行くんだ」って聞かれて、「ソマリア」って言ったら「危ないからやめろ」って言われたこともある。あんたに言われたくないよ(笑) 丸山:ソマリアに行っている日本人がそもそもいないですからね。ソマリアには外国人はいるんですか? 高野:全くいない。ジャーナリストはアフリカ連合軍に従軍していくらしいから。俺みたいにフリーで一人でふらっと行く人はいないみたいよ。 丸山:高野さんは最近ソマリランド推しですが、幻獣は追いかけないんですか? 高野:ウモッカはやりたいけど、インドに行けるようにならないと(諸事情により高野氏はインドに入国できない。詳細は『怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道』集英社を参照のこと)。 丸山:ヘビーに旅している人でも、インドで入国禁止になるのは聞いたことないです。不法滞在がギリギリあるくらいで。 高野:この前名古屋大の先生と話していてびっくりしたんだけど、インド入国禁止になった研究者って結構いるんだって。あるあるネタだったんだよ。しかも俺と同じパターンで、本人が気づかなくてビザも大使館で取ってインド行って入国しようとしたらはねられて強制送還。調査許可を取らないで観光ビザで入って調査して、どうしてバレるのかはわからないんだけど、多分発表した論文をチェックしている人がいるんでしょう。 丸山:「インド入国禁止あるある」ですね。 高野:それを話せる人がいたことにびっくりして(笑) 丸山:ほとんどいないですよそれ(笑)!でもそろそろ解かれてほしいですね。ウモッカの続きを読みたいファンは多いですから。 高野:ビザは取れるけど入国できないという状態なんだけど、同じような状況になった研究者がパスポートを変えて2~3年後にもう一回行ってみたら入れた。俺もその手を試してもよかったのかもしれないけど、とにかくすぐ行かなきゃと思って大使館に訴えちゃった。そしたら大使館が「そういうことだったらビザも出しません」と。「ビザは入国許可証なのに入国できないのはおかしい」と言ったらそっちに合わせちゃった。 丸山:黙っていたらパスポートを書き換えれば入国できたかもしれない? 高野:その可能性は高いね。でも当時はいますぐ行かなきゃと思っているから2~3年も待てないでしょ。いまは正面からその状況を改善しないといけない。 丸山:そろそろ解けそうですか? 高野:こっちも本腰を入れてやらないと。交渉中に外国に行ったりして、こっちの都合で交渉できなくなってしまうじゃない。「すみません、ちょっと外国に行ってるんで」と言うと、あっちもテンションが下がる。 丸山:日本でやるしかないですもんね。高野さんの取材してきたテーマで、いままで一番共感されなかったネタって何ですか? 高野:ほとんどみんな理解されないけど、ゴールデントライアングルでケシ栽培っていうのはまったく共感されなかったね。 丸山:確かにアヘンあるあるはないですよね。違う人たちとの話になりますね。 高野:(爆笑)そうそう。 丸山:ケシ栽培で共感されたことってありますか。 高野:ないね。だって地元の人にも共感得られないから。でも行くとケシ栽培について俺に語る奴とかいるんだよね。地元のガイドとかホテルの従業員とか。でも間違っているから。 丸山:地元の人ですらそれだったら日本では共感なんて得られないですよね。最後にこれだけは注意しておきたいこととして、旅行に出る前にはパスポートだけは忘れないというのを言っておきたいのですが、高野さんはパスポートを家に忘れたことはありますか? 高野:家に忘れたことはないけど、旅先でなくしたって大騒ぎすることは何度も(笑)「あそこで飯食ったときかもしれない」「タクシーの中かもしれない」ってあちこち探して、結局カバンのポケットに入っていた(笑) 丸山:やっぱり高野さんは引っかかるところは一緒でも出てくるネタが面白いですね。 高野:普通ですよ、普通。 【高野秀行】 1966年生まれ。ノンフィクション作家。 早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。1992-93年にはタイ国立チェンマイ大学日本語科で、2008-09年には上智大学外国語学部で、それぞれ講師を務める。『イスラム飲酒紀行』(扶桑社)、『未来国家ブータン』(集英社)など著書多数。 【丸山ゴンザレス】 1977年生まれ。犯罪ジャーナリスト、旅行作家、編集者。 海外の文化、歴史、危険地帯に造詣が深く、アジアやアフリカを中心に取材旅行を定期的に行い、雑誌や書籍などに旅行記を発表している。また合法・非合法にかかわらず潜入取材を得意とし、裏社会に関する著作を、「丸山佑介」の名義で発表している。著書に『アジア罰当たり旅行』(彩図社)、『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)など多数。
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