「日経新聞記者はAV女優だった！70本以上出演で父は有名哲学者」。『週刊文春』にこのような記事が掲載されたのが14年10月のこと。スッパ抜かれた（？）のは「『AV女優』の社会学」（青土社）で注目を集めた社会学者・鈴木涼美さん。11月末には「身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論」（幻冬舎）を上梓したばかりだ。 　新刊の発売を記念して、報道直後に週刊SPA！で3回に亘って掲載された漫画家・峰なゆか（『アラサーちゃん　無修正』『セクシー女優ちゃん　ギリギリモザイク』）との対談を完全版で公開！　女は本当に「身体を売ったらサヨウナラ」なのか？　性を商品化することの中毒性について徹底したフィールドワークを基に考察し高い評価を得た鈴木涼美。アラサー女性の恋愛とSEXの本音を描いた漫画で共感を呼ぶ峰なゆか。AV女優というキャリアを経て執筆業で活躍する二人が「性を商品化すること」の意味を改めて考える。 ⇒【vol.1】https://nikkan-spa.jp/759443 ――いわゆる「学問の世界のオジサン」たちの反応はどうでしたか？ 鈴木：「あんな報道に負けないくらいキミの研究はすばらしい！」みたいな、無駄に褒められてる感じがあったんですよね。「俺は、週刊誌でハアハアいってるようなオヤジとは違うよ」って。 峰：理解を示してくれるのはうれしいんですけど、「こんなこと言ってあげるのは俺だけだろ？」みたいな感じが滲み出てるとちょっとイラっとしますよね。だったら「AV出てたんだ！　じゃあ、加藤鷹とヤッた!?」ぐらいが素直で好感度高い。 鈴木：私は加藤鷹と絡んだことはないんですけど（笑）、まぁでも「ファンでした」って言われるのが一番うれしいかな。 峰：私もそれが一番うれしいです。最近、エロ漫画を描いてる女の子の友達が、ギャルの子にそのことを「え、きもーい！」って言われたらしく。でもそれが何かうれしかったって。「偏見なんてないよー」とか言われるより、そうやってストレートに言われたほうがマシだなって。 鈴木：あと、私自身はそんなに怒ってなかったんですけど、怒ってくれる人は味方だって思ってうれしかった。発売前日は、それなりにヘコんでいたので。「またお母さんに怒られるなー」とか、「ダサくまとめられてたらイヤだなー」って。 峰：学生時代は、まわりにAV女優やってるって言ってましたか？ 鈴木：仲の良い友達には「今度AV出るんだよね」って。でもそのときはほとんど大学には行かず、キャバクラの寮に入ってたんです。 峰：キャバクラの寮!?　本格派じゃないですか!! 鈴木：今まで付き合った彼氏も、スカウトマンかキャバクラ内勤なんかが多くて……。スカウトマンと同棲していたときに出演が決まったんですけど、まだ若かったから、彼氏も「そうなんだ、アツいね」みたいな（笑）。あとは、大学の授業でフリーペーパー作って、そこで「現役AV女優が語る！」みたいなコラム書いてましたね。 峰：え!?　コラムって、何について書くんですか？　仕事の話とか？ 鈴木：いや、全然そういう話ではなく。おいしいスイーツとか（笑）。 峰：あははは！　最高ですね！ 鈴木：内容は全然つまんないんですけど、タイトルに“現役AV女優”って付けとけばいいかなって。エロいポーズの写真も載せて、男子たちに「見て見てー！」って。峰さんはまわりに言ってました？ 峰：私は学校の親しい友だちを10人くらい集めて言いました。あとでヒソヒソ「あいつAV出てるんだって」みたいなこと言われるのはめっちゃムカつくので、もしそういう噂が立ったときは「え、知らなかったの？」って反応をしてくれって頼んだんです。 鈴木：抜かりないですね（笑）。でも一度AVをやると、絶対に将来つきまとうじゃないですか。「昔ちょっと服屋のバイトやってたけど、忘れてたわ」というふうにはならないから。もし本当にそれぐらい軽いものになったら、それこそ洋服屋のアルバイトと同じ給料になっちゃう。 峰：AVのギャラもどんどん安くなっているけど、アイドルのイメージDVDとかで、もうほとんどAVじゃん！みたいなことを死ぬほど安いギャラでやってたりしますよね。アイドル活動なんて、最初はみんなほぼ無給でやってるわけだし。そういうのと同じって考えると、別にいいんじゃないかなとも思います。今はAV女優の子も無料でツイキャスとかやってるし。私のころはそんな時代じゃなくてよかったー！とは思うけど。私たちがいたころって、今のようにAV女優の顔面レベルが高くなる前夜みたな時期でしたよね。 ⇒【vol.3】に続く https://nikkan-spa.jp/760445 【鈴木涼美（すずき・すずみ）】 83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。09年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。「身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論」（幻冬舎）発売中。現在は日経新聞を退社し、執筆業を中心に活動 【峰なゆか（みね・なゆか）】 漫画家。アラサー世代の女性の恋愛観、SEX観を冷静に分析した作風が共感を呼び各誌で活躍中。「アラサーちゃん　無修正」（1～3巻、以下続刊）は累計40万部を超す人気作となり、14年7月には壇蜜主演でテレビドラマ化された ＜取材・文／おぐらりゅうじ　撮影／尾藤能暢＞