異例の全国公開!広島ローカル映画『ラジオの恋』制作秘話「アイデアはほとんど居酒屋で…」
http://radiolovefilm.com/
<取材・文/日刊SPA!取材班>
時代はネット全盛。“レガシー-メディア”という言葉が示すように、それまで主流だった媒体の多くがインターネットに削られ、喘いでいる。
「もうラジオ辞めようかな……」
そうつぶやくのは、広島の放送局で絶大な人気を誇るパーソナリティ、横山雄二。RCC放送というラジオ局で生番組を長年続けるベテランDJで、あの有吉弘行も売れない時代に世話になったという知る人ぞ知る存在だ。
そんな横山を主役に、ラジオ番組をテーマにした映画「ラジオの恋」が、2月21日の新宿武蔵野館を皮切りに全国公開される。広島の劇場で公開され、異例のロングランを経た後、全国へ――あまり類をみない流れに、注目が集まっている。
◆通底する“広島愛”
「もうラジオなんて誰も期待してないんじゃないか?」
そんな思いに駆られたラジオパーソナリティー、横山雄二のもとに、ある日、「ミミ」と名乗る少女が現れる。そして、ラジオの世界に不可思議なことが起こり始める。
少女が残した予言は次々と現実になり、スタジオが混乱する中、少女が横山への思いを語り出す――というストーリーだ。
特筆すべきは、通底する“広島愛”。撮影は広島で行われ、ミミ役の中野さくらは呉在住の小学生。脇を固めるのも広島出身のアンガールズ・田中卓志。さらに挿入歌・主題歌は広島が生んだロックスター・矢沢永吉と、“オール広島”とも言うべきラインナップで制作されている。
メガホンをとる時川英之監督もまた、広島出身だ。海外の放送局でドキュメンタリー番組の制作に携わるなど、国際色豊かな監督がなぜ、故郷に帰り、どんな映画を撮りたかったのか? 時川監督に胸中を聞いた。
――「ラジオの恋」を制作するに至った過程は?
「広島を出て20年くらい東京や海外に住んでいましたが、地元の広島に住みたいと思うようになり、3年前に広島に引っ越しました。ちょうど知り合いのプロデューサーが短編映画を作ろうとしていて、それで一緒にやろうということになり、それがきっかけで、やがて長編企画になっていきました。
プロデューサーからは、『どういう内容でもいいので、横山雄二でやって欲しい』と頼まれました。横山さんは広島でカリスマ的な人気がある方で、アナウンサーなんだけど、芸人とも、役者ともいえる不思議な魅力をもった方です。それで、横山さんと毎週居酒屋に集まって企画会議をして、いろんなアイデアを考えていたら、やっぱり横山さんのやっているラジオのまわりの実話がとっても面白かったので、僕がその実話をベースにフィクションへと書き直し、ストーリーにしていきました。だからこの映画は本当に居酒屋でかなりの部分が考えられたといえます」
――広島では記録的なヒットを残したそうですが。
「広島では初日から満員で座れない人が多かったので、劇場の両脇の通路に沢山のパイプ椅子を出してもらって。お客さんに座って観てもらいました。2週間やって、アンコール上映で、結局全部で5週間上映して。そのミニシアターの近年の記録を塗り替えました。ありがたいことにそれが東京にも伝わり、今回、全国公開となりました」
――作品はどんなテイストに仕上がっている?
「広島に戻ってあらためて、きれいな街だなと思いました。川が6本もあって、街の至る所に橋があり、そこに市電が走っていて……。久しぶりに見る故郷の広島を美しく撮ることはかなり研究しました。
作品全体としてラジオとリスナーの関係を描くものなので、その関係や情緒がでるように映像を工夫していったと思います。あと、普段は面白おかしい横山さんの哀愁ある姿も、うまく作品にはまったと思います」
――みどころを是非、教えてください。
「このお話は、ラジオ局で起こった実話をベースにつくったファンタジーです。だから、作り話だけれど、物語の中のラジオの人々が小さなブースから何かを必死に届けようとする気持ちは本物です。そのラジオを聞いている人々の思いも本物です。いろんな世代の方々に共感してもらえる作品だと思います。
また、広島ということで言えば、今年で戦後70年が経ちます。この映画は戦争のことは一切出てきませんが、これが撮影されたのは広島の街の中心ばかりです。そこは、一時はなにも無くなった場所です。それが戦後70年を経て、こんなに美しい平和な街になった、そういうところも、ぜひ全国の方々にも観ていただきたいです」
広島が生んだ、珠玉のファンタジー。心が荒れがちな人は、観て一息ついてはいかがだろうか。
【時川英之(監督・脚本)】
1972年生、広島出身。海外のTVネットワークでプロデューサー/ディレクターを務めた後、日本に戻り、ドキュメンタリー、映画、CMなど幅広いジャンルの映像作品を手がけている。その国際色豊かな経験からユニークな作品を作り出している
●映画「ラジオの恋」
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