クレーマーを味方に変える謝罪術 歌舞伎町のジャンヌ・ダルクが語る
周囲には十数の組事務所が居を構え、客室には組員が長期滞在。ロビーはチンピラと風俗嬢の休憩所代わりとなり、時には薬物常習者がうろつくことも……。そんな歌舞伎町ならではのビジネスホテルに新支配人として赴任したのが、三輪康子氏。宿泊名簿への記入をお願いするだけで、クレーマーと化すヤクザたちと怯まず向き合い、ホテルの健全化に成功。その功績を讚えられ、新宿署から“歌舞伎町のジャンル・ダルク”と評される彼女の謝罪力の源とは?
「私の根本にあるのは、相手がヤクザだろうが、クレーマーだろうが、どんな人でも思いは通じるという信念です。クレーム対応とは、全力で相手の気持ちを理解すること。つまり、人への対応です。例えば、宿泊代を払わないとゴネるヤクザを相手にお金で解決することは簡単です。でも、それは問題の解決ではなく、放棄。ましてや歌舞伎町では“あそこはクレームに弱い”と噂が立つと、次々とつけ込まれます。ですから、粘り強く、“なぜこんなに理不尽なことを言うのだろう?”とお客さまの気持ちに寄り添い、話を聞き続ける。すると、怒りのピークがすぎ、場が弛み、こちらの筋を通せる瞬間がやってきます」
ヤクザは泊めないという筋を通し、出口まで相手を案内。「ありがとうございました」と頭を下げ、ホテルから送り出す。それが三輪氏の謝罪スタイルだ。とはいえ、相手はヤクザ。怖さに押し切られることはなかったのだろうか。
「昔から見て見ぬふりができない性格で、“怖い”よりも先に体が動いてしまうんです。その結果、エレベーターホールで日本刀を突き付けられたり、駐車場で危機一髪のところを警察官に救われるなど、命の危険を感じたことも何度かあります。それでも“お客さまを救い、従業員を守らなきゃ”という正義が、信念になりました」
何者も怖がらず、クレーマーの話をしつこいくらい聞き続ける三輪氏。その姿勢に惚れ込んだヤクザの幹部から「姐さん」と慕われ、ホテル前の違法駐車を注意すると、数台の黒塗りのクルマからいっせいにヤクザが降り、全員が並んで最敬礼したという『極道の妻たち』を地でいくような逸話も。
「怒鳴られるのはつらいですし、謝罪は面倒なことかもしれません。でも、体当たりで向き合ってみると、クレームは相手の人となりを知るチャンスになります。きれいごとだと笑われても、それを実行し続けたから今があるのです」
【三輪康子氏】
有名ホテルグループに勤める現役支配人。実績等が評価され10年度MVPを獲得。今年7月『日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人』(ダイヤモンド社)を上梓した
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