カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第28講・ドラッグ・ディーラー」

ジャーディン・マセソン商会近辺

上海のジャーディン・マセソン商会近辺

 ハイパーインフレはなぜ起きた?バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す! 著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。



ジャーディン・マセソン商会


 奴隷三角貿易の衰退とともに、19世紀、イギリスはインドのアヘンと中国の茶を結びつける三角貿易をはじめます。イギリスで喫茶の習慣が拡がり、イギリスは中国の茶を求め、銀で支払いをしていました。

 そのため、イギリスは輸入超過状態となり、銀の流出が止まりませんでした。そこで、イギリスはインド産のアヘンを中国に輸出し、銀に代替させ、茶を中国から得ました。

 ジャーディン・マセソン商会などの貿易商がアヘンの中国への輸出を担当し、大きな利益を上げて、逆に中国側の銀が流出しはじめました。ジャーディン・マセソン商会は1832年に、マカオで設立されて、イギリス東インド会社の別動隊のような役割を担った民間商社で、アヘン貿易を取り仕切ります。
 当時の清王朝は地丁銀によって、銀で納税をさせていました。アヘン貿易による銀の大量流出によって、中国の銀価が約2倍に急騰し、納税が滞りました。清王朝は財政を揺るがす事態を放置できず、アヘンを全面禁輸し、アヘン吸引者を死刑にするなど、厳しい措置を取りました。

 しかし、アヘン中毒者は既に広範に拡がっており、朝廷の高官まで中毒に侵されていました。皇帝からアヘンの取り締まりを任ぜられた林則徐が、高官たちを広間に集めて座らせると、中毒にかかっている彼らは二時間、席に座っていることができず、禁断症状が出て、バタバタと苦しみはじめたといいます。

 1839年、林則徐は広州に赴き、イギリス商人のアヘン2万箱を没収して焼却し、商館区の封鎖を強行しました。怒ったイギリスは清王朝を武力で制裁するため、1840年、アヘン戦争を起こします。

「恥ずべき不義」


 アヘン貿易については、倫理的な面からイギリス国内でも激しい批判がありました。アヘン戦争の開戦に際し、イギリス議会でも、ウィリアム・グラッドストン(後に首相)らを中心に、「恥ずべき不義」とする批判が強まっていました。

 しかし、ジャーディン・マセソン商会は議員に対するロビー活動で多額のカネをばらまき、反対派議員を寝返らせます。その結果、中国出兵に関する予算案は賛成271票、反対262票の僅差で承認されました。イギリスは、軍艦16隻を含む40数隻の艦隊を派遣し、大砲の威力で清王朝を屈服させました。

 ジャーディン・マセソン商会は、アヘン戦争でイギリスが占領した香港に、本店を移転し、さらに上海にも支店を開き、中国市場に進出します。上海に外灘(英語名:バンド)という外国人商業区域がありますが、ジャーディン・マセソン商会は、ここで最初に土地を取得し、自社ビルを建てた会社です。ルネサンス様式のこのビルは現在でも、「怡和洋行大楼(英語名:Jardine Matheson Building)」として残っています。

 ジャーディン・マセソン商会は、清朝政府に対して借款をおこない、清崩壊後も鉄道の敷設権や営業権などを得て、莫大な利益を上げていきます。今日でも、ジャーディン・マセソン商会は国際的なコングロマリット(複合企業)として、中国・アジアを中心に、多角的な事業展開をおこなっています。

HSBC香港上海銀行


 アヘン戦争後、HSBC香港上海銀行(The Hongkong and Shanghai Banking Corporation Limited、)が設立されます。HSBCはジャーディン・マセソン商会をはじめ、サッスーン商会、デント商会などのアヘン貿易商社の資金融通や、送金業務を請け負いました。HSBCは香港で、アヘン戦争以降、今日まで続く通貨の発行もおこない、中国の金融を握ります。

 このように、イギリスの覇権は奴隷貿易の人身売買業者、アヘン貿易のドラッグ・ディーラーなどによって形成されたものであり、その犯罪的かつ反社会的な手法なくして、持続可能なものでなかったことは明白です。悪辣非道、弱肉強食、厚顔無恥、こうしたことこそが国際社会の現実であることを歴史は証明しています。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。著書に『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。





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