なんでボクが……まさかの即日入院[楽しくなければ闘病じゃない:心臓バイパス手術を克服したテレビマンの回想記(第1話)]

心臓の異常を教えてくれた辰巳桜橋

心臓の異常を教えてくれた辰巳桜橋

突然の呼び出し

 その日(2016年4月8日)も機嫌よく会長執務室に入った。いつもの通り、主要紙の閲読に始まり、次に、メールチェックで一日が始まるはずだった。  部屋に入るとき、洒落心のある女性研究員から「会長は今日も快調ですね」などと上手を言われ、「うまいこと言うね」と挨拶したばかりである。メールは会合の案内とか、スケジュール確認のためのものが多いが、いくつかは返信しなければならないものもあった。  10時ころ、返信すべくキーボードに向かったところで、机上の電話が鳴った。秘書が「慈恵医大病院からです」と取り次いだ。「病院から電話とは何事か」と思ったが、電話の主は循環器科外来の小川和男先生だった。小川先生には、1週間前に、緊急に診断してもらい、心臓のCT(コンピュータ断層)写真を撮ってもらっていた。 「CT写真を見ましたが、心臓の重要な血管に狭塞(きょうさく)が見られます。冠動脈の大切なところが3か所詰まっています。何が起きてもおかしくない状況ですからすぐ来て下さい」 「エッ」と思ったが、この時点のボクには何の自覚症状もなく、すぐと言われても応じる気分ではなかった。たまたま、この日の3時半に小川先生の予約を取っていたので、「3時半に伺います」と答えた。 「それでは遅いのです」 「今日午後の3時半ですよ。それまでちょっと仕事がありますので……」 「それでは遅いんですよ」 「遅いといわれても5時間くらい待っていただけないでしょうか」  ボクは何故そんなに急がされるのかわからなかった。その悠長さが小川先生に伝わったのだろう。 「とにかく、すぐ来てください。入院の準備をして、ご家族の方を連れてすぐ来てください。私は昼食の時の居場所をはっきりさせておきます。来院されたらすぐ連絡がつくようにしておきます」  入院の支度をして、しかも家族も一緒にと言われてボクもいささか緊張した。そんなに悪いところがあったのか。

自覚症状はあった

 たしかに3か月ほど前から、坂を登ったり、階段を昇ったりした時に胸に違和感を覚えるようになってはいた。自宅のマンションから有楽町線辰巳駅に至るまでに運河を渡る辰巳桜橋がある。  この橋の中央部は両端より相当高くなっており、中央に至るころには胸に「抑えつけられたような」感覚が走る。しかし、下りにかかり、橋を降りきるあたりになると、この違和感・圧迫感はきれいに消えている。毎日同じ現象が起きるので、通勤経路を替え、登り下りのない道にしたが、急ぐと同じ症状が出る。  何が悪いのかと思い、1か月くらい前からインターネットの医療サイトを覗き、検索を繰り返して調べてみたところ、どうも労作性狭心症らしいと自己判断した。そして4月1日、予約していた同病院の糖尿病科で症状を説明した。  糖尿病科にはすでに18年もかかっている。別に歴とした糖尿病ではなかったが、成人病予防、メタボ対策として通っていた。高血圧症、高脂血症、高コレステロール症などの進行を抑える薬は処方されていた。  ボクの自己診断を聞いた嘉納麻耶先生は否定しなかった。 「お手紙を書きますからこれからすぐに循環器科に行ってください。すべては循環器科の先生に従ってください」  嘉納先生は若い女医さんだが、お医者さんのいうことは従うしかない。午後の仕事予定の変更を秘書に連絡して、循環器科に赴いた。そのとき、診断をしてくれたのが、8日に緊急電話をくれることになる小川先生である。  先生は突然回されてきたボクの症状を聞いて、テキパキと心臓のCT写真を撮る手続きを進めてくれた。ボクには何が起きているのかさっぱりわからなかったが、とりあえずCT写真を撮って、この日は病院を後にした。その結果を踏まえて、8日の、あの電話になったのである。  電話を受けたボクは、こちらの都合も考えず、「すぐ来て」とは迷惑な電話だと思ったが、「迷惑な電話」が大きな吉報につながることをこの時は露とも思わなかった。 素人は得てして「木を見て森を見ず」である。 協力:東京慈恵会医科大学附属病院 【境政郎(さかい・まさお)】 1940年中国大連生まれ。1964年フジテレビジョン入社。1972~80年、商品レポーターとして番組出演。2001年常務取締役、05年エフシージー総合研究所社長、12年同会長、16年同相談役。著者に『テレビショッピング事始め』(扶桑社)、『水野成夫の時代 社会運動の闘士がフジサンケイグループを創るまで』(日本工業新聞社)、『「肥後もっこす」かく戦えり 電通創業者光永星郎と激動期の外相内田康哉の時代』(日本工業新聞社)
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