【連載小説 江上剛】母の葬儀をきっかけに都会で暮らす兄、田舎の妹、嫁……噴出するそれぞれの思い【一緒に、墓に入ろう。Vol.14】

メガバンクの常務取締役執行役員にまでのぼりつめた大谷俊哉(62)。これまで、勝ち馬に乗った人生を歩んできたものの、仕事への“情熱”など疾うに失われている。プライベート? それも、妻はもとより、10数年来の愛人・麗子との関係もマンネリ化している。そんな俊哉が、業務で霊園プロジェクトを担当している折、田舎の母の容体が急変したとの知らせを受ける。
順風満帆だった大谷俊哉の人生が、少しずつ狂い始める……
「墓じまい」をテーマに描く、大人の人生ドラマ――

第二章 母が死んだ Vol.14

「母さん、結構、おしゃれだったじゃない? 田舎の人にしてはね。でもそんな母さんも東京への憧れを完全に封印して、大谷家の嫁として家と墓を守り通したってわけ。それを自分の代限りにしたくない、なんとか後々まで墓を守り、家を守りたいというのが、まあ、執念みたいなものね。昔の人は、皆、そうじゃないの。今は、みんな根無し草みたいだけど。でも私は、母さんの気持ち、よく分かるなぁ。今、笠原家で同じ立場だもの。私は子どもには、自由にしてもらいたいけど、笠原の家と墓だけは守ってねと言い聞かせている。息子はそれほど出来がいいわけでもなかったお陰で、大学を出て、地元の信用金庫に勤務してくれて、同じ敷地に家を建てて住んでくれている。息子のお嫁さんとも、まあ、余り悪い関係じゃないから、後はなんとかしてくれるんじゃないかなと思っている」

俊哉は、滔々と淀みなく話す清子の姿を見ていて、澄江が清子に乗り移ったような、不思議な感覚になった。
清子は、夫である健太郎との間に、長男、長女がいる。
長男の清太郎は、大阪の大学を卒業して、地元信用金庫に勤め、職場結婚。今では、男の子二人の父親だ。
長女の菜摘(なつみ)は、サラリーマンに嫁ぎ、今は大阪の豊中に住んでいる。菜摘には男女二人の子供がいる。
清子は、計四人のおばあちゃんということになる。
清子は、澄江の人生について話したが、実は、自分の人生について話しているのかもしれない。
清子も多くの夢を持っていたのだろうが、それを諦め、健太郎と結婚し、笠原家という嫁ぎ先に尽くすことで、子供、孫と順調に世代が繋がり、彼らの先祖になって行く。それが最も安定した幸せだと考えるようにしているのだろう。
清子の子供や孫たちは、澄江の葬儀に参列し、特に孫たちは暗く沈みがちになる葬儀に少しばかりの賑やかさ、明るさを与えてくれた。

その点、俺は……と俊哉は考えた。
次のページ 
夢を諦め、田舎で嫁ぎ、子を育て孫にも恵まれた妹。一方、都会で大手銀行の役員になった自分は幸せなのか……

1
2




関連記事