カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第43講・オスマン帝国のグローバル・リンケージ・システム②」

 ディウ沖海戦

ディウ沖海戦

ハイパーインフレはなぜ起きた?バブルは繰り返すのか?戦争は儲かるのか?私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す!著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。                   

大砲と銃

 オスマン帝国は南方の紅海・インド洋ルートを握るエジプトのマムルーク朝を狙います。しかし、エジプトのマムルーク朝は強大でした。  14世紀以降、造船技術が世界的に発展し、陸路のシルクロードよりも、紅海・インド洋ルートの海の道がヨーロッパとアジアを結ぶ東西交易路として、主に使われていました。  オスマン帝国は1453年、ビザンツ帝国を征服し、黒海を支配し、黒海から中央アジアのシルクロードへ到るルートを確保しましたが、既にシルクロード経営は落ち目にあり、海の道を支配するマムルーク朝とはその国力において、大きな差がありました。  かつて、黒海に交易拠点を持っていたジェノヴァは黒海・シルクロード交易から撤退し、スペイン・ポルトガル、北西アフリカなど、西方へ拠点を移していました。  オスマン帝国はマムルーク朝に手出しすることのできない状況にありました。しかし、16世紀に入り、大きなチャンスが訪れます。  ポルトガルがインド進出を本格化させ、インド洋の制海権を巡り、ポルトガルとマムルーク朝が激突し、1509年、インド西岸で、ディウ沖海戦となります。  ポルトガル軍の大砲の威力を前にマムルーク朝艦隊は敗退しました。インド洋交易の巨大な利権を失ったマムルーク朝は急速に求心力を失っていきます。  コンスタンティノープル攻略後、オスマン帝国には、銃がドイツからいち早く伝わっていました。オスマン帝国は陸軍の銃武装化を積極的に進め、軍隊を近代化していきます。  そして、オスマン帝国はマルジュ・ダービクの戦いでマムルーク朝に大勝し、1517年、これを滅ぼしました。  オスマン帝国はイスタンブル(旧コンスタンティノープル)、アンティオキア、アレクサンドリアの三つの玄関都市を全て、手に入れました。  シリア、エジプトの富を首都イスタンブルに集めるため、アレクサンドリアやアンティオキアは海路で密接に接続される必要がありました。  そこで、オスマン帝国はロードス島、キプロス島を征服し、三都市を接続する中継地にします。

インド利権をポルトガルと分け合う

 オスマン帝国は海路でインドへも進出し、ヨーロッパへの輸出用商品として、香辛料、象牙、穀物、砂糖、綿花などを買い付けます。  一方、ヨーロッパから、銃、鉄器、木材、毛織物、ガラス製品、ワインなどが運ばれました。オスマン帝国はこうした物品の流通を支配し、巨万の富を蓄積していきます。  一般的に、ポルトガルはディウ沖海戦でマムルーク朝を撃退して以降、スムーズにインドへ進出したというイメージがあります。  しかし、インド利権を巡り、オスマン帝国とポルトガルが激しく争ったことを見落としてはなりません。  マムルーク艦隊は、大砲の装備が遅れたため、ポルトガル艦隊に大敗しましたが、オスマン艦隊は大砲製造の技術をイタリア人技師やギリシア人技師などから積極的に受容し、ポルトガルとインド洋一帯で互角に戦います。  オスマン艦隊は1538年、ポルトガルの占領地アデンを攻略します。アデン(前掲地図参照)は紅海とインド洋を繋ぐ戦略の要衝でした。その後、オスマン艦隊はディウの砦を包囲するなど、ポルトガルと争います。  1566年、オスマン帝国とポルトガルは協定を結び、インド貿易を分け合うことについて、合意しています。  ポルトガルは16世紀に、インドにおける支配基盤を固めていきますが、ポルトガルの躍進の陰に、オスマン帝国のインド進出が見落とされてしまいます。しかし、オスマン帝国もまた、インド貿易で覇を唱えたもう一方の雄でした。  因みに、オスマン帝国は東南アジアにも進出しています。インドネシアのスマトラ島北部のアチェの国王はポルトガルの侵略に対抗するため、1560年頃、オスマン帝国に支援を要請しました。  オスマン帝国は艦隊を派遣し、アチェを防衛します。アチェには、オスマン人墓地が残っています。 【宇山卓栄(うやま・たくえい)】 1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。著書は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)ほか。
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